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「ときどき、なんだかすごく怖いのよ、先物のことが」と彼女は言った。

「良い面だけを見て、良いことだけを考えるようにするんだ。そうすれば何も怖くない。悪いことが起きたら、その時点で考えるようにすればいいんだ」と僕は言った。

「でもそううまくいくものかしら?」

「うまくいかなかったら、その時点でまた考えればいいんだ」

 彼女はくすくす笑った。「あなたって昔からかわらず変な人ね」と彼女は言った。

「ねえ、ひとつだけ質問していいかな?」と僕はビールのプルリングを取って言った。

「いいわよ」

「スターF証券の前に何社エントリーした?」

 彼女は少し迷ってから、指を二本出した。「二社」

「一社は外食で、もう一社は住宅販売だろ?」

「どうしてわかるの?」

「パターンなんだよ」と言って僕はひとくちビールを飲んだ。「僕だって無駄に就職浪人してるわけじゃない。それくらいのことはわかる」

「負け組っていうわけね?」

「ブラックなんだ」

「あなたは何社くらいエントリーしたの?」

「二十六社」と僕は言った。「このあいだリクナビで確認したんだ。リクナビ経由だけで二十六社、リクナビ以外で十社くらいはあるかもしれない。リクナビに求人を出せるほどの資金力があるところばかりではないからね」

「どうしてそんなにブラック企業ばかりエントリーするの?」

「低学歴だからさ」と僕は正直に言った。「優良企業にエントリーしても、説明会は満席なんだ」

 我々はそれからしばらく黙って、いっそのこと資格試験を目指すべきか考えた。先物やブラック企業に就職するよりも何年か資格のためフリーターになる方がはるかにましだった。新卒ブラックでは転職もままならないのだ。