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そして、私たちは愛に帰る

評価 : ★★★★☆

原題は "Auf der anderen Seite" 。英語に直訳すると "On the other hand" (その一方で)になる。さすがにそれじゃ意味不明なので邦題が付けられてるみたい。だけどちょっと直接的過ぎるかなって気がする。確かに映画のテーマは愛なんだけど、男女の愛より人類愛という感じ。

あらすじ。トルコ移民のアリというじいさんが同じトルコ移民の売春婦を気に入り、家にいっしょに住まわせることになった。実は売春婦イェテルには複雑な事情があり、トルコに残してきた娘に学費を仕送りするために売春をしているのだった。しかしちょっとした諍いでアリはイェテルに手を挙げてしまい、彼女を死なせてしまう。そこから物語がズンズンズーンと進んでいく。

トルコとドイツ、3組6人の親子について物語は語られていく。第一章がネジェット(息子)、アリ(父)、イェテル(アイテンの母)のストーリー、第二章がアイテン(トルコで過激派活動をしていたが、警察に追われドイツに偽造パスポートで入国する)、シャーロット(仲間のところを追い出され空腹で困っていたアイテンを助けるレズビアンの女子大生)、シャーロットの母のストーリー。そして第三章ですれ違っていた登場人物たちのストーリーが重なり始める。

ドイツからトルコ、トルコからドイツへと遺体が運ばれるシーンや、親が子を、子が親を探すんだけどニアミスしながらすれ違っていく展開など、対称性が非常に重視されたストーリー展開。内田けんじの『運命じゃない人』とか、見たこと無いんだけどキューブリックの『時計じかけのオレンジ』とか、タランティーノの『レザボアドッグズ』に近い話の進行だ。パズル仕立てっていうのかな。カチッカチッとしてて僕は心地よかった。

ぶっちゃけるとストーリーはしまりがないというか、淡々と進んでいく。アクション映画のようなハラハラドキドキな展開が随所にあるわけじゃない。正直わりと地味。だけどその淡々としたストーリーと同じのかたちの反復というか、「あのシーンにはこんな意味があったのか!」的な筋書きがマッチして、飽きることなく見ることが出来た。

冒頭部分を見る限りでは、ドイツのトルコ移民問題っぽい映画かという気がしたんだけど実はそうじゃなくて、トルコの中でもマイノリティーであるクルド人問題なのかというと、一瞬そんな流れになりつつも監督の言わんとするところはそこじゃなくて、結局は人類愛とか宗教的なテーマに収斂していく。

エンディングが特徴的だった。「え、これで終わり?」と唐突な印象を受けたが、エンドロールがやたらかっこよいのだ。一体どんなエンディングなのかは見てのお楽しみ。かなり満足できた。