空気人形

評価 : ★★★★★

主人公の空気人形(ペ・ドゥナ)は、板尾創路が演じるしがない中年男秀雄に飼われている。ぼろアパートで人間の女の代替品として秀雄に抱かれるだけの日々。しかしある日心を持ってしまい、外の世界の美しさを知る。街を散歩していてたまたま入ったレンタルビデオ店の店員純一(ARATA)に恋をしてしまうが、そのせいで傷ついたり悩んだりするようになる。

いわゆるダッチワイフが感情を持ってしまうという話。こういうオシャレで荒唐無稽な映画はミシェル・ゴンドリーの『恋愛睡眠のすすめ』を見て以来敬遠してたのだけど、予想に反してすごく気に入ってしまった。久々に「もう一度見たい!」と思える映画だった。台湾のカメラマンを起用した東京の映像も美しい。錆びたぼろアパートの金属の描き方とか。

パリ、ジュテームっぽいオムニバス映画っぽさも

ところどころで摂食障害の女や年増の受付嬢、孤独な老人、変態浪人生(フィギュアのスカートの中をビデオカメラ越しに覗きながらマスターベーションする)、父子家庭の親子、認知症の気がある未亡人、おかしな警察官(寺島進が演じてる。警官のくせにレンタルビデオ店で「ものすごい悪い警察官が出てくる映画」を見たがる。笑った)などとペ・ドゥナがすれ違う。この辺はまるで『パリ、ジュテーム』を見てるみたいだった。東京に住む人々の孤独を人形越しに表現している感じ。しかし映画にストーリーらしいストーリーがあるわけではない。人形であるペ・ドゥナがふわふわと東京の街を散策するだけ。

ファンタジックだけど面白い

僕は映画を見るときにはかなりリアリティーにこだわるので、例えばドイツを舞台にした映画なのに登場人物が全員英語をしゃべる映画とかは興ざめで全く見る気にならない。ワルキューレとか縞模様のパジャマの少年とか。どんだけテーマが面白そうだったり感動的なストーリーでも、全然受け付けない。だからこの手のリアリティーを完全無視したファンタジックな映画は苦手だし、面白くつくるのはとても難しいと思うんだけど、僕のようなリアリティー重視派の人間でも納得させられる出来だと思った。ペ・ドゥナと人形の容姿はまったく似てないのに、空気人形と心を持った人間の女を行ったり来たりするシーンに違和感がない。ペ・ドゥナのお腹に空気を入れるための弁があるところとか、顔はペ・ドゥナのままなのに体だけ空気がしぼんでいく様とか、映画自体に圧倒的な雰囲気がなければ興ざめも興ざめ、非常に寒々しい映像になるに違いないのに、全然違和感がなかった。

唯一注文をつけるとしたら最後のCG。あれはさすがにないと思ったけど、それでも僕はこの映画は高く評価する。都会で孤独な生活を送る人間のエゴがよく表現されてる。人間のエゴで人形は傷つくのだけど、人形の無邪気さが今度は最愛の人を傷つけるのだった。いい映画でした。

追記

ポスターのペ・ドゥナは全然かわいく見えないし、好きなタイプの容姿でもないんだけど、映画のなかの動いてるペ・ドゥナはとてもかわいかったです。

あとARATAって僕が高校生の頃はSmartとかメンノンに激烈オシャレモデルとして登場してた気がするんだけど、風采の上がらないビデオ屋の店員を好演してました。というか映画見終わって家で映画の公式サイト開くまでARATAが出てたって気づかなかった。

扉をたたく人

評価 : ★★★☆☆

主人公はコネチカットに住んでるウォルター・ヴェイルという大学教授。学生のレポートの提出が少し遅れただけで受け取らないくせに、自分は講義要項を期日までに提出できないダメオヤジ。シラバスは去年のものを使い回し、20年も同じ授業を続ける。だが論文共著者の代理でどうしても学会に出席せねばならなくなり、ニューヨークへと赴く。ニューヨークのアパートに着くとそこには招かれざる客が。

白人の知識階級とアフリカからの移民の交流を描いた映画。保守的だった主人公がシリアからの移民タレクと交流するうちに心を開き、変化していく様子を描いたもの。どっかのレビューで『グラン・トリノ』に匹敵するいまのアメリカを描いた映画、みたいなのを読んだ覚えがあるんだけど、正直そこまでの映画ではないと思った。でも悪い映画ではなかった。 ウォルターはアメリカ人っつーよりもどっちかっつったら日本のダメ公務員みたいな感じで描かれてる。ろくに仕事はしないのに高い給料もらって豪邸に住み、ニューヨークにもアパートを持ってる。毎日夕方早くに帰ってきてワイン飲みながら一人で夕飯を作る。妻には先立たれており寂しい男やもめ生活。最初はなんか見ててイラリきた。 しかしタレクとその母親モーラと出会ったことでウォルターは代わり始める。二人のために必死に尽くそうとするウォルター。有り余る時間と金を二人のために使う。ここで僕は、「男はやっぱり金だなー」と思った。もちろん金がすべてじゃないことは分かってる。でも金で救える心や気持ちっていうのは確実に存在する。映画は必ずしもハッピーエンドを迎えるわけではないんだけど、ウォルターは自分にできることを必死にやり遂げ、モーラとタレクの力になる。もしウォルターが貧乏だったら不法移民の彼らにしてあげられることなんて何もなかっただろう。 若い頃の心を持ったまま金持ちになりたい、と思った。

アンヴィル!夢を諦めきれない男たち

評価 : ★★★★☆

ヘヴィーメタル隆盛前夜に多くのメタルバンドに影響を与えたカナダのヘビメタバンドアンヴィル。1984年には来日してボン・ジョヴィとツアーを行ったりしたのに、大ブレイクすることなく落ちぶれてしまった。30年を経てもロックスターへの夢を諦めずバンド活動にいそしむアンヴィルのメンバーに密着したドキュメンタリー。

これは良かった。メタル好きじゃなくても楽しめる映画。アンヴィルがどういうバンドなのかという予備知識はなかったんだけど、最後の方はこみ上げてくるものがあった。アンヴィルの中心メンバーはボーカル・ギターのリップスとドラムのロブ。この二人が結成時からのメンバーっぽい。リップスはケータリングの仕事を、ロブは建築現場の内装の仕事をしながらバンド活動を続けている。

片言の英語しか話せないマネージャーにだまされるというかそそのかされる形でメンバーはヨーロッパツアーに出るものの、プロモーションが不十分だったりマネジメントがダメダメなせいで全然ライブに人が集まらず、時間通りに移動できずライブに遅刻したためギャラがもらえなかったりとか、多くのメタルミュージシャンに影響を与えたバンドとは思えないような扱いを受ける。ヨーロッパツアーでレコードレーベルの目にとまり新しいアルバムのレコーディングに入ることを目標としていたアンヴィルだが、結局ツアーでは一文も稼げず途方に暮れる。この辺のみじめさの描き方がうまい。むかし競演したことのあるミュージシャンに駆け寄って挨拶するシーンとか、有名アーティストに「See you later」と適当にあしらわれるシーンとか。

ツアーやレコーディングの最中にリップスとロブが衝突するんだけど、これがまるで若いカップルの痴話げんかみたいだった。でもあつい。リップスは底抜けに人なつこいというか、わがままなんだけどほっとけないやんちゃ坊主みたいな性格で、それにロブが合わせてる感じ。この二人の人間関係がとても濃密で魅力あふれる。

全般的に『レスラー』をドキュメンタリーにしたような内容だった。でも『レスラー』みたいに恋愛事情が絡んだりはしない。人を愛すること、よく生きること(どういう生き方が自分にとって一番ハッピーなのか)について考えさせられる映画だった。熊本のDenkikanは一週間しか上映しなかったけど、すごくもったいないというかやるせない。もっと多くの人に見て欲しかった。

蛇足だけどラストの日本でのライブシーンは、観客がエキストラっぽく見えてちょっと興ざめしてしまった。アメリカやヨーロッパでライブに来てた観客は結構アダルティーだったのに、日本のライブではティーンエイジャーっぽい連中がたくさん集まってて「そういうのってあり得るの?」という違和感を覚えずにはいられなかった。

イングロリアス・バスターズ

評価 : ★★★★☆

第二次大戦中のナチスドイツ占領下のフランスが舞台。“イングロリアス・バスターズ”と名づけられたユダヤ系アメリカ人による連合国の特殊部隊がフランスに投入される。隊長はブラッド・ピット扮するアドレ・レイン中尉。ドイツ軍を無残にやっつけてヒトラーを悔しがらせる。ある晩、パリの映画館でナチのプロパガンダ映画がプレミア上映されることになり、ナチの高官もろとも劇場を吹っ飛ばす作戦が発令された。果たして作戦はうまくいくのか?

いやこれはすごかった。もうむちゃくちゃ。まずブラピがむちゃくちゃ。普通のナチスものの戦争映画ではアメリカ軍は正義の軍隊なんだけど、全然正義じゃない。「俺はアパッチ(インディアン)の血も引いてるから、殺したナチ野郎どもの頭の皮を剥げ」とか部下に命令する。降伏してるドイツ兵をバットで殴り殺したりとか完全なジュネーブ条約違反。なんつーのかな、単なる二枚目俳優じゃなくてハチャメチャに暴れててすげーいい感じ。喋り方とかバカっぽいんだけどそれが妙にルックスとマッチしてる。『セブン』とか『リバー・ランズ・スルー・イット』とか高校生の頃に見たブラピはカッコつけのいけ好かない野郎だったけど、この映画に出てるブラピは最高にかっこいい!

次に良いのがなんといってもハンス・ランダというSS(ヒトラー親衛隊)の大佐。フランス語、英語、イタリア語を流ちょうに操りユダヤ人狩りを行う。慇懃無礼な感じが最高だ。役を演じたクリストフ・ヴァルツはカンヌ映画祭で男優賞を受賞したそうで、それも納得。このむかつくおっさんが最後までネチネチとブラピや家族を殺された少女ショシャナを苦しめる。ユダヤ人狩りに農家を訪れて牛乳を飲んだり、ホテルのレストランでクリームパイを食べるところのいやらしさもスゲー印象に残った。このおっさんとブラピだけで映画が2000円分くらいの価値を発生させてる。

ドイツ語、英語、フランス語が飛び交うのがすげーかっこよかった。アルドとかはアホなアメリカ人だから英語しかしゃべらないんだけど、ナチスの将校や英軍が送り込んだ兵士、ドイツ人だけど寝返った女優なんかはマルチリンガルな感じでしゃべくりまくる。ワルキューレみたいに全編英語とか興ざめだよね。

そしてスリリングな展開。ドイツ軍に紛れ込んだバスターズをナチスの将校が「アクセントがおかしい」と素性を疑うシーンはハラハラドキドキさせられる。エンターテインメント作品としても完成度高い、高すぎる。素晴らしい!

残念なのは『グッバイ、レーニン!』のダニエル・ブリュールが歳を重ねるにつれてかっこわるくなってきてることかな。『グッバイ、レーニン!』に出てた頃のブリュールは20代前半で、かわいい男の子アレックスのイメージが染みついてるんだよな。というか声がかわいいし、その後いくつか出てる映画を見たけど、『グッバイ、レーニン!』のときが一番良かったな。

ぐだぐだ書いてしまったけど、あまり多くを語るよりこのレビューを読んでもらった方が話が早いかも。2chコピペ風。でもほんとこんな感じ。タランティーノすげーわ、やっぱ。

『イングロリアス・バスターズ』(クエンティン・タランティーノ) - イン殺 - xx

サイドウェイズ

評価 : ☆☆☆☆☆

アレクサンダー・ペイン監督のアカデミー賞脚色賞受賞のアメリカ映画を日本人俳優でリメイクしたもの。監督は日本育ちのアメリカ人で、プロデューサーに踊る大捜査線の人が入ってる。オリジナルは大好きなのでときどきDVDで見返してるんだけど、結論から書くとこのリメイクは全然だめ。

オリジナルの『サイドウェイ』ではとにかく主人公のマイルス(ポール・ジアマッティ)がダメ男として登場するんだけど、リメイク版のサイドウェイズの主人公である斉藤道雄(小日向文夫)は全然ダメ男じゃない。いやダメなのかしんないけどダメさが足りない。

たとえばマイルスは、親友ジャックとの旅行に出かける日に寝坊して遅刻したり、うんこしながら本読んだり、売店でNYT買うついでにエロ本買ったり、母親の家に寄ってへそくりをがめたり、好きな女の子に誘われても逃げたり、離婚した後も前妻のことが好きで好きでたまらなくて、いつかはよりを戻したいって思ってて酒にべろんべろんに酔って前妻に未練がましく電話したり(このシーンのダメダメさにはダメ男としてシンパシーを感じざるを得ない!)、とにかくダメ男なのだ。しかしリメイク版の斉藤道雄はあんまりダメじゃない。真面目だし。オリジナル版ではマイルスがワインの博覧強記ぶりを女の子と競い合う場面がかなり重要な意味を持つんだけど、この映画ではそれも控えめ。ちょっとうんちくを披露するだけに終わる。

オリジナル版のジャックに相当する上原大介役を演じたのは生瀬勝久。この人はオリジナル版のジャックの軽薄さが出てて悪くはなかったけど、生々しいセックスシーンとかが省かれてるので、ジャックの情けなさに比べると弱かった。

マイルスは極限までに臆病で、ジャックは底抜けに女好きで軽薄なのがペイン版『サイドウェイ』の良かったところなんだけど、その対比が弱いので映画としての魅力が薄まってる印象。

オリジナルのサイドウェイが好きな人は、この映画見た後、納得いかなくなってきっとオリジナル版のDVDを引っ張り出して見ることになると思います。僕も今夜あたりオリジナル版を見直そう。

リミッツ・オブ・コントロール

評価 : ★★☆☆☆

謎の男が謎のタスクを命じられ、スペインに赴く。ところどころでメッセンジャーからメモ入りのマッチ箱を渡され、男は次の目標へと移動し続ける。そして最後に命令を実行に移すときがやってきた。

予告編が面白そうだったので期待してたんだけど、うーん、よくわからんかった。ジム・ジャームッシュが有名な人なのだということは知ってるし、『コーヒー&シガレッツ』と『ブロークン・フラワーズ』はとても好きだったので、今作もあのコミカル路線なだろうと思っていたけど全然違った。かなり前衛的。車に乗るシーンはちょっとしかないんだけど、主人公が列車で荒野を移動する感じがロードムービーぽかった。あと主人公はカフェでコーヒーを飲むとき、しきりに「エスプレッソを二つのカップで」ということにこだわる。カフェの店員がエスプレッソダブルだと思い、大きいカップにエスプレッソをダブルショット注いで持っていくと怒る。コーヒー&シガレッツでも、一人でエスプレッソをデミタスカップ二杯分注文してる人がたくさん出てきてたし、これはジャームッシュのこだわりなのかな。僕も今度カフェに行ったとき真似してみよう。

出てる俳優が特徴的だった。コーヒー&シガレッツで「No Problem?」に出てるイザック・ド・バンコレが主役で、共演していたアレックス・デスカスが冒頭に主人公に指令を出す男を演じてる。『コーヒー&シガレッツ』ではイザック・ド・バンコレもアレックス・デスカスもすごく若く見えたんだけど、あれは確かジャームッシュが長年撮りためた短編をまとめたものだから、20年くらい前に撮影したのかもしんない。とにかくイザック・ド・バンコレはまじめな役柄で、部屋に素っ裸の女がいて誘われても行為に及ばない。その辺がタイトル(リミッツ・オブ・コントロール)にも反映されているのかな。よくわからない。

ほかに良かったのはガエル・ガルシア・ベルナル。この人は最初『天国の口、終りの楽園』で見たときからずっと良い。今作では最高に油が乗りきってる感じで、メキシコ人のメッセンジャー役なんだけど、やたらうまそうにビールを飲むし、ひょうひょうとしたしゃべり方をするし、ミシェル・ゴンドリーの映画に草食系男子っぽい感じで登場したときよりも100万倍くらい良い。『アモーレス・ペロス』に出てたときのような感じ。またアルフォンソ・キュアロンの映画に出ないかな。

そして最後にビル・マーレイ。この人だけ一人でコメディやってるように見えた。カツラのおっさん、っていう役だったし。

総じて前衛的過ぎた。ちょっと一般の人が見ても面白くないんじゃないかなと思う。劇場には熊本での公開初日ということもあって映画好きっぽいオタクがいっぱい来てたけど。僕はあまり面白いと感じませんでした。

THIS IS IT

評価 : ★★☆☆☆

マイケル・ジャクソンロンドン公演のためのリハーサルの様子が、内輪のために撮影されていたらしい。その映像を編集して映画化したものがこのThis Is It。世界同時二週間限定公開だったらしいけど、延長されたみたい。

TwitterやTumblrで見た人の感想見てるとすげー評判良いんだけど、個人的にはいまいちだった。早く上映おわんねーかなー、と感じてしまった。Jackson 5とか肌の色が白くなる前のマイケルは好きなんだけど、大人になってからのマイケルはあんまり好きじゃなくて。オーディションを受けに来たダンサーたちの興奮はインタビューから伝わってくるんだけど、感極まって泣くとかそういうのは分かんない。ダンスとかに興味がないってのも関係あるかも。

ミュージシャンとかプロデューサーへのインタビュー内容は興味深かった。マイケル・ジャクソンはミュージシャン達に対して細かく指示を出す。普通、コンサートの演奏の質はスタジオ録音されたものには及ばないけど、マイケルはCDの音を完全に再現、あるいは場合によってはそれを上回ろうと試みる。でもマイケルの指示の出し方は繊細だし、音楽への理解を前提としているから指示される方もそれを受け入れる。注文の付け方も命令口調じゃなくて、「これはLOVE。エル・オー・ヴイ・イー、愛なんだよ」と言う。この辺がマイケルのカリスマ性の所以なのかなーと思った。

最後、環境問題にマイケルが重大な関心を寄せていた、みたいな展開で物語は終わる。この辺がちょっとね、僕には分からんです。前もWe Are The Worldみたいのやってたよね。24時間テレビに毒されてるせいかな。マイケルのスピリチュアルな部分が偽善的に見えるんだよね。

とにかく僕は、マイケルの前をおしりをぷりぷりさせながら歩くカフェオレ色の肌をしたクレオールっぽい感じのダンサーの女の子に目が釘付けになったし、マイケルの隣で超絶ギターテクを炸裂させる金髪のギタリストの女の子がかわいくて仕方なかったです。