This is England

評価 : ★★★★☆


"This Is England" (Original Soundtrack)

ブリットポップ前夜、フォークランド紛争後の1983年のイングランドが舞台。スキンヘッドの若者たちがクソなサッチャー政権とクソな社会に反発する映画。とても面白かった。

主人公ショーンは12歳の少年。父親をフォークランド紛争で亡くし、母親と低所得者向けの住宅で過ごす。父が買ってくれたフレアのパンツを学校に穿いて行って「ウッドストックに帰れよ」とからかわれ、しょぼくれてとぼとぼ家に帰っているところをガード下にたむろするスキンヘッド集団に声をかけられる。グループのリーダー、ウディに励まされたことでスキンヘッド集団と関わるようになる。

当初はウディらと健全(?)なスキンヘッドライフを送るショーンだが、ウディの旧友、コンボが刑務所から出てきてグループの調和を乱しまくる。彼は刑務所での経験がもとで人種差別主義者と化していたのだ。グループにはミルキーというジャマイカ系の男がいるのに、コンボは彼の前でも構わず人種差別的な言動を繰り広げる。これにウディは気分を悪くし、コンボを避けるようになる。結果的にグループは二分するのだが、ショーンは愛国主義的で排外的なコンボの思想に惹かれるようになる。コンボのグループは政治集会に参加したり、パキスタン系の移民を迫害したり、どんどん政治色を強めていく。そして悲しい結末がショーンとコンボを待ち受けているのだった。

冒頭のフォークランド紛争の報道映像を引用してるシーンがショッキングだった。地雷で片足を吹き飛ばされた英兵が担架で運ばれる映像が挿入される(補給艦に搭乗していてミサイル攻撃を受けて負傷した兵士らしい : フォークランド戦争 - MEDIAGUN DATABASE)。イギリスは結果的にフォークランド紛争に勝利したけど、多くの艦船を失い、少なからぬ死傷者を出したみたいだ。加えて社会に蔓延する英国病。なぜ移民には住宅が優遇されるのに、元々の住民であるイングランド人が貧しい暮らしを送らなければならないのか。コンボは極端な人種差別的国粋主義者だが、言っていることは一理ある。排外的なスキンヘッド集団が生まれたのには様々な時代背景があったことが分かる。

ストーリー以外の部分では、ウディ(風貌がルパン三世っぽい)のファッションがとても格好良かった。Ben Shermanのシャツの下にサスペンダーでぴちぴちのジーパンを吊し、ロールアップした足下にはDr. Martensのブーツ。さらに上からピンバッジ付きのMA-1などのフライジャケットを着る。フライトジャケットとかすごくダサく見えてたけど、ジャストサイズをこういう風に着こなすととても格好良く見える。イギリスでは2007年公開の映画だけど、この格好はこれから流行るんじゃないだろうかと思った。

英語も特徴的で面白い。どの英語がどこ訛りだとか詳しいことは分からないけど、comeは「カム」より「コォム」と聞こえるし、canは「キャン」より「カァン」と聞こえ、アメリカ映画の英語とは全然別物だ。「ああー、イギリスいいわぁー」っていうイギリスかぶれには辛抱たまらんはず。

加えて音楽。ブリットポップ前夜のイギリスはパンクロックばかりなのかと思っていたけど、そうじゃなくて、スキンヘッズはスカやレゲエ、ソウルも聴いてたみたいだ。1980年代に入ってからスキンヘッズは白人優位の人種差別的集団と化したようだが、そもそものルーツはジャマイカ系移民のスタイルに強く影響を受けていたらしい。だから人種差別主義者のコンボが、マリファナをくゆらせながらブルースを聞くシーンもある。僕はパンクはあまり好きじゃないのだが、作中で使われてた音楽はどれも格好良く、サントラを買おうとしたらAmazonでは何と在庫切れ中。そのくらいかっちょいい。

ショーンが年上の女の子スメルに恋をするんだけど、このスメルって子がまるでX Japanのメンバーみたいなメイクをしてて不思議な色気があった。

グラン・トリノ

評価 : ★★★★★

朝鮮戦争に招集された経験を持ち、フォードの組み立て工をしていた主人公のウォルター・コワルスキー(クリント・イーストウッド)。最愛の妻を亡くし一人寂しい日々を送る。2人の息子との関係はうまくいかず、周囲の人には心ない言葉を浴びせまくる。ポーチに腰掛けてビールを飲みながら犬に話しかける毎日。しかし妻の葬儀の日に隣にアジア系のモン族が引っ越してきて、モン族の少年タオと触れあううちに彼の心境は変化していく。

すばらしかった。クリント・イーストウッドは前作の『チェンジ・リング』も評判が良く(見に行きたかったんだけど見に行けなかった)、俳優よりも監督のウェイトの方が重いんじゃないか。事実今作が俳優活動の引退作品であるようだ。今後は積極的には俳優業はやらず、監督業に専念する模様。 主人公のコワルスキーは頑固な古典的アメリカ人で、アジア系や黒人を露骨に差別する。何かあるとすぐに銃を引っ張り出す。隣人が芝生に入っただけでもライフルで脅す。まるでこち亀のボルボ西郷みたいなところもあるんだけど、なんかやたらカッコいい。アジア人をバカにしながら、隣人のタオの姉スーが黒人に絡まれてるときにはトラックで現れてチンピラを銃で脅して撃退する。スーと一緒にいた白人のボーイフレンドは黒人のチンピラ連中に「ようブロー(兄弟)」みたいな黒人っぽい英語で話しかけて友好的にその場をしのごうとするんだけど、「ハァお前何言ってんだヴォケ」みたいな反応されてビビりまくる。結局、クリント・イーストウッドが現れて黒人のチンピラを追い払う。なんつーのかな、ツンデレっていうのかも知れないけど、「あんたなんて嫌いなんだからね!」って言いながらタオとスーのことを助けるのだ。

同じモン族のチンピラがタオをチンピラグループに入れようとしてしつこく付きまとうんだけど、これもクリント・イーストウッドが追い払う。そんでタオのあまりのヘタレぶりに辟易し、タオをかっちょいいアメリカ人の男に育て上げようとする。工具を貸し与えたり女の子をデートに誘うようにけしかけたり床屋でのかっちょいい話し方を教えたり建設現場でのアルバイトの口を見付けてきてやったり。この辺の逆『ベスト・キッド』的なところがすごく良い。

『チョコレート』っていう映画では黒人を差別してた元刑務官が、自分が刑を執行した黒人受刑者の妻と付き合うようになるけど、あれに似たところもある。異人種間の融和というか。

そしてさらに、アメリカ人の男とはどうあるべきなのか、アメリカ人のアイデンティティとは何なのかを、アジア系のニューカマーであるタオに徹底的に教え込もうとする主人公の姿勢が新しい。

一見すると時代の流れと無関係に存在するような作品なんだけど、テロやアフガン戦争、イラク戦争、そして金融危機とアメリカのビッグスリーの凋落など、アメリカの繁栄にかげりが見えるいまだからこそ、クリント・イーストウッドはこの映画を作ったのではないかと感じた。時代は変容して白人中心のアメリカから、いろんな肌の人によって構成される多民族国家のアメリカ像を描こうとしたんではないか。さらに自動車のビッグスリーはトヨタに食われっぱなしだ。元フォードの従業員の主人公は、息子がトヨタのランドクルーザーに乗りトヨタ車を売って回っているのが癪に触る。息子と関係がうまくいかないことの一因でもありそう。しかし物語の中でウォルターが大切に保管している72年式のクラシックカー、グラン・トリノが大きな役割を果たす。もう一度グラン・トリノのようにアメリカを輝かせよう、そういう意図があるんではないかなと感じた。

ところでこの映画に登場する白人はみんなカトリックなんだけど、ここにも重要なメッセージがあることに見終わってから気がついた。アメリカで主流のエスニックグループはWhite Anglo-Saxon ProtestantのWASPなわけだが、主人公コワルスキーはポーランド系、床屋のおっさんはイタリア系、建設現場のおっさんはアイルランド系。みんな白人ではあってもカトリックで、イギリス系ではないので非主流グループということになる。第二次大戦の前後まではイタリア系やアイルランド系は職に恵まれず、移民してきても大変な生活を強いられていた。それでもアメリカにとけ込んで国の成長を支え、立派なアメリカ人になった。これからはアイルランド系やイタリア系やポーランド系にかぎらず、アジア出身の新しいアメリカ人たちがアメリカを支えるのだ、っていうメッセージを僕は感じ取った。

最後にウォルターは考え得る最善の方法でスーとタオを守る。どんな方法かは見てのお楽しみだが、もうちょっと他に方法はなかったのかと考え込んでしまった。

実は密かに別のサブドメインにMovable Typeを設置して、映画の感想をぼちぼち書いてました。このブログのアクセスログを見ると映画の感想はほとんどアクセスがないので、今後は別の場所に分けることにしました。映画専用ブログの方では劇場公開だけでなくDVDで見た映画の感想もわしわし書いていこうと思います。人に見せるためのものっていうより自分で後から「あー、あの映画何だったっけ?」ってときの記憶の引き出しのとっかかりにするために。

そんなブログに興味のある酔狂な方はこちら。

ゴンゴンの見た映画

そして、私たちは愛に帰る

評価 : ★★★★☆

原題は "Auf der anderen Seite" 。英語に直訳すると "On the other hand" (その一方で)になる。さすがにそれじゃ意味不明なので邦題が付けられてるみたい。だけどちょっと直接的過ぎるかなって気がする。確かに映画のテーマは愛なんだけど、男女の愛より人類愛という感じ。

あらすじ。トルコ移民のアリというじいさんが同じトルコ移民の売春婦を気に入り、家にいっしょに住まわせることになった。実は売春婦イェテルには複雑な事情があり、トルコに残してきた娘に学費を仕送りするために売春をしているのだった。しかしちょっとした諍いでアリはイェテルに手を挙げてしまい、彼女を死なせてしまう。そこから物語がズンズンズーンと進んでいく。

トルコとドイツ、3組6人の親子について物語は語られていく。第一章がネジェット(息子)、アリ(父)、イェテル(アイテンの母)のストーリー、第二章がアイテン(トルコで過激派活動をしていたが、警察に追われドイツに偽造パスポートで入国する)、シャーロット(仲間のところを追い出され空腹で困っていたアイテンを助けるレズビアンの女子大生)、シャーロットの母のストーリー。そして第三章ですれ違っていた登場人物たちのストーリーが重なり始める。

ドイツからトルコ、トルコからドイツへと遺体が運ばれるシーンや、親が子を、子が親を探すんだけどニアミスしながらすれ違っていく展開など、対称性が非常に重視されたストーリー展開。内田けんじの『運命じゃない人』とか、見たこと無いんだけどキューブリックの『時計じかけのオレンジ』とか、タランティーノの『レザボアドッグズ』に近い話の進行だ。パズル仕立てっていうのかな。カチッカチッとしてて僕は心地よかった。

ぶっちゃけるとストーリーはしまりがないというか、淡々と進んでいく。アクション映画のようなハラハラドキドキな展開が随所にあるわけじゃない。正直わりと地味。だけどその淡々としたストーリーと同じのかたちの反復というか、「あのシーンにはこんな意味があったのか!」的な筋書きがマッチして、飽きることなく見ることが出来た。

冒頭部分を見る限りでは、ドイツのトルコ移民問題っぽい映画かという気がしたんだけど実はそうじゃなくて、トルコの中でもマイノリティーであるクルド人問題なのかというと、一瞬そんな流れになりつつも監督の言わんとするところはそこじゃなくて、結局は人類愛とか宗教的なテーマに収斂していく。

エンディングが特徴的だった。「え、これで終わり?」と唐突な印象を受けたが、エンドロールがやたらかっこよいのだ。一体どんなエンディングなのかは見てのお楽しみ。かなり満足できた。


"きみに読む物語 スタンダード・エディション [DVD]" (ニック・カサヴェテス) 『16歳の合衆国』、『ラースと、その彼女』でライアン・ゴズリングが良かったので、ゴズリング主演で評判の良い『きみに読む物語』ってのをDVDで見た。なんつーのかな、古き良きアメリカ映画って感じだった。高校の頃の音楽の先生が変わった人で、授業の最後の15分間くらいで毎回映画を見させてくれてて、『俺たちは天使じゃない』とか『白い嵐』とか『ラスト・オブ・モヒカン』とかを見させてもらった。3年間で結構たくさん見たと思う。どれもアメリカ映画で、白人の美男美女が主人公みたいのが多かったような気がする。で、『きみに読む物語』ってのはまさにそんなアメリカ映画の典型的なプロットに当てはまるストーリーだった。美男美女のカップルが、身分や家柄の差を乗り越えて、最終的には結ばれるというお話。 とにかくキスしまくる映画で、後半からはベッドシーンもあるんだけど、ヒロインを演じたレイチェル・マクアダムスがかたくなにおっぱいを見せない。いや別におっぱいが見たいわけじゃないんだけど、ベッドシーンだけカメラの構図が不自然でそれがすごく気になった。 アメリカの雄大な自然、豪華な作りの建物、自動車などなど、「これぞアメリカっ!」って感じのアイテムがいっぱい出てくる。物語は1940年から始まるんだけど、貧しいノア(ゴズリング)の家でさえ車を持ってて、街はにぎやか。こんな国と戦争したら勝てるわけがない。日本の高度経済成長期以後の生活水準をアメリカは既に戦前に実現してたって感じ。 パクス・アメリカーナって言葉がある。パクス・ロマーナ(ローマの平和)をアメリカに当てはめたものだけど、20世紀のアメリカは本当にパクス・アメリカーナな感じだったんだなって思う。ブロンドの俳優たちがチューしてる姿は、古代ギリシャやローマの彫刻を思い起こさせる。ラストは愛はどんな障害をも乗り越えるみたいな展開だし、終始ウルトラポジティブ。 『きみに読む物語』ではところどこに黒人が出てくるんだけど、ヒロインの実家(金持ち)の家のメードだったり、老後の主人公が入ってる老人ホームのスタッフだったりする。結局白人中心の世界から抜け出してなくて、黒人に単純労働とか面倒くさいことは任せてパクス・アメリカーナは成り立ってたんだなって感じた。 ゴズリングの出てる『16歳の合衆国』、『ラースと、その彼女』は、そういったパクス・アメリカーナの反対側を描いた映画だなって思った。『16歳の合衆国』とか特に。パクス・アメリカーナは虚構なんだよね。アメリカはイギリスから独立したけど、ほんのつい最近までイギリス風の植民地主義を引きずってた感じがする。 『きみに読む物語』、思春期の女子高生とかには超受けるだろうけど、俺は911以後の世界を描いたアメリカ映画の方が好きだなと思った。

ホルテンさんのはじめての冒険

評価 : ★★★★☆

ノルウェー映画。監督は『キッチンストーリー』のベント・ハーメル。列車の運転手のホルテンっていうおっさんが定年退職を迎える前後のお話。あんまり期待しないで見に行ったんだけどとても面白かった。

『英国王給仕人に乾杯』同様、『かもめ食堂』とか好きそうな人をターゲットにしてるような邦題だが、かもめ食堂好きが見ても面白いと思わないんじゃないかな。「ホルテンさんのはじめての冒険」みたいなさん付けのタイトルだからなんだかかわいいおっさんを想像するかも知れないけど、実際は愛想の悪いパイプ中毒の変なおっさんの話です。でもとても良かった!

良かった点

まず第一に音楽が良かった。キッチンストーリーもそうなんだけど、この監督は音楽の選曲がいい。エンディングテーマがとても印象に残る。kaadaというアーティストの曲らしい。

第二に、主人公がものを食べたりビールを飲んだりするのがとても良かった。キッチンストーリーでも瓶詰めのニシンや板チョコをうまそうに食べるシーンがあるんだけど、人がものを食べたり飲んだりする映画はとても好きだ。役者がうまそうにものを飲み食いしてるのを見るだけでなんだか元気になる。

第三に、この映画はとてもシュールなストーリーなんだけど、あくまで映像は現実的で、そこのバランスが妙だった。例えば訳わかんなさ具合で言ったら、ミシェル・ゴンドリーの『恋愛睡眠のすすめ』に勝るとも劣らないんだけど、あちらと違って映像自体はCGやアニメや人形劇でお茶を濁すわけではない。硬派に意味不明なんだよな。恋愛睡眠のすすめは夢と現実を行ったり来たりして、特殊効果を多用しすぎ。見てる方は訳分かんなくなる。それに対して本作では脚本やストーリーで意味不明さ、理不尽さを表現してるのが素晴らしい。

「日本」も出てくる

気に入ったのが日本が出てくるシーン。「ニッサンが日本の会社だなんて信じられるか? スウェーデン語ならまだしも」というセリフや、サントリーのウィスキー「響」がスクリーンに映し出されたりする。ちょっとうれしい。

牛乳

それとホルテンやレストランの客がよく牛乳を飲む。ホルテンやその他の登場人物たちは、ペンションでの夕食のとき、レストランでの食事のとき、家に帰ってすぐ何気なく冷蔵庫を開けたとき、牛乳を飲む。あれは何かを示唆しているんだろうか。

「鉄」は万国共通なのか?

冒頭の方で、鉄道運転手が集まってホルテンの退職を祝うパーティーみたいのがあるんだけど、そこでの余興が面白い。汽笛や車内放送の音を聞いてそれが何線のものであるかを当てるというやつ。そう、「鉄」なのだ。ノルウェーにも鉄っちゃんはいるんだなーと興味深かった。

おくりびと

評価 : ★☆☆☆☆

おくりびと見てきたんですけど、正直がっかりだった。レディースデーのおかげで劇場は朝の上映1回目からクソ混んでたんですけど、はっきり言ってこんなに客を集められる映画じゃないと思う。

ネタバレOpen

総じて物語のテンポがあまり良くなく、間延びした印象を受けた。小山薫堂氏は映画初脚本だったんでしょ? 今日の夕刊に出身地の天草市が名誉市民賞授与するとか書いてあったけど、あまり良い脚本だとは思わなかった。

アカデミー賞外国語映画賞受賞できたのは題材が納棺師という特殊なものだったからじゃないかな。これ映画としては凡策ですよ。わざわざ混んでる劇場に見に行くほどのものじゃないと思った。