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三苫海岸

ソーシャルメディアやニュースサイトに毎日新しいコンテンツが次々に投稿されるので、インターネット上の総情報量は増えていっているはずだが、 20 年前と比べてアクセスできる情報の種類は減っているのではないかと感じる。いま何か情報を得ようとしたときに Google は以前ほど便利ではなくなってきている。 Google がキュレーションした情報にしかアクセスできないからだ。誰にもフィルタリングされていない生の情報にアクセスしようとしたら Twitter 検索の方がよっぼどよいと感じるくらいだ。

昨年末、 40L の登山用バックパックをニュージーランドのショップから購入した。日本でも売っていた商品だが、国内の正規取扱店では売り切れてて個人輸入で購入するしかなかった。商品名で Google 検索しても日本語のページしかヒットしないし、在庫ありとして表示される楽天や Amazon のページには怪しい業者が定価の何倍もの価格でふっかけて販売しているケースがほとんどで、 Google から直接海外のショップのページに辿り着くことができない。メーカーのウェブサイトから各国の取り扱い店をたどってようやく販売しているページを見つけてメールで問い合わせて購入することができた。

15 年くらい前、日本から patagonia.com にアクセスすると patagonia.jp にリダイレクトされて、アメリカで 10000 円くらいで売られているものが日本では 1.5 倍の 15000 円くらいになってて日本人はぼったくられている、というようなことを書いている記事がバズってた(ちなみにいまも patagonia.com を開こうとすると patagonia.jp にリダイレクトされる1)。当時は日本人が価格差に気がつけないようにしているのは邪悪だということで攻撃されていたのはパタゴニアだけだったが、現在では Google が似たようなことをやっていて、インターネット全体でパタゴニアと同じようなことが起こっている。日本人(日本の IP アドレスから日本語設定のブラウザーを利用している人)が海外のショップから直接物を買おうと商品名で Google 検索しても、海外のサイトはほとんどヒットしない。日本人は日本語のウェブページしか見させてもらえない。

日本語のページであっても、すべてが検索結果に表示されているわけではない。何か商品について調べようと Google 検索しても結果に出てくる店は決まっていて、 20 件程度表示されたあとにそれ以降の情報を探すことができない。楽天や Amazon 内の情報のほか、 BASE や STORES 、カラーミー、 Shopify などといった割と利用者が多いカートを採用しているページは Google ショッピングの一覧に表示されるが、そうではない自前の CMS で構築されているような地方のショップのサイトなんかは結果に出てこない。

昨シーズン、ARC'TERYX の Motus AR Hoody というパーカーを買ってとても使い勝手が良かったので、今シーズンも色違いを買おうと探してみたら主要なサイトではすでに売り切れていた。一昨年も GRiPS のサイト(カラーミーで構築されている)に掲載されたタイミングでは買い逃していてネットの海をさまよって何とか辿り着いた地方のショップのサイト(メジャーなカートシステムではない独自システムのサイト)で購入することができた。まさかそんなことあるまいと思いながら今シーズンもそのサイトを訪れて探してみたところ、何とよそでは売り切れて定価の 2 倍とか 3 倍の値段で売られている Motus AR Hoody が定価で販売され在庫が残っていた。こういう例は一度や二度ではなく、何度か経験した。

インターネットに情報が増えすぎて、 Google としても検索結果に表示するページは絞るしかないのだと思う。すると Google にとってクローリングしやすく、サイトの更新を追っかけやすいサイトばかりが検索結果に表示されるようになる。サイトのレスポンスが遅かったり、構造がいまいちイケてないサイトは検索結果に出てきづらくなる。その結果、同じようなページばかりが検索結果に表示され、一部のサイトにだけトラフィックが集中して独自サイトにはアクセスが集まりづらくなってきている可能性がある(だから自分が買ったショップのページでは Motus AR Hoody のような人気商品が売れ残っていた)。

インターネットは情報の非対称性を下げて、より取引を効率化するものだと信じてきてが、どうやらそうではないようだ。一部のページにだけアテンションが集中し、むしろ情報の非対称性が高まっている。あっという間に定価で売られていた商品が売り切れてモノの値段がつり上げられ、一方でアテンションを集められないサイトでは売れ残ってセールになっている。経済学のセオリー通りなら、市場の原理が働いてギリギリに近い競争均衡価格で商品は取引されるはずだが、実際には逆の現象(正規販売店による定価販売と一部の転売業者による価格つり上げ販売)が起こっている。

EC サイトだけでなく、ブログや個人のウェブサイトでも同じような問題が起こっているのではないかと感じる。 Google のコアアルゴリズムアップデートで自分のブログも随分 Google 検索からの流入が減った。

2015 年からの月ごとの検索流入の推移

実際には存在するのに、 Google から不遇されて存在しないことになってしまっているウェブサイトがインターネット上にはきっとたくさんあるだろう。

昔のインターネットのような、検索結果をたどればたどるほど新しい情報と出会えていた頃が懐かしい


  1. 2023-01-18 訂正: patagonia.com から patagonia.jp へのリダイレクトは2023年1月18日時点では機能していなかった 

| @雑談

GRiPS

福岡の宗像市に GRiPS というアウトドアショップがある。

このブログでも何度か触れているし、ウルトラライト( UL )な登山ギア愛好家の中ではかなり有名な店だ。仕事で何か新しい事業に取り組まなければならないとき、 GRiPS のやり方は参考になると思うので GRiPS の何がすごいのかを言語化してみた。

GRiPS との出会い

最初 GRiPS に行ったのは登山を始めたばかりの頃で、山と道製品を取り扱ってるってことで通りがかりにちょろっと冷やかしで行ってみた。そしたら店の入口の張り紙に「冷やかしお断り」とか「子どもの入店お断り」と書いてあってビビった。店内にも「触って傷つけたら買い取り」と注意書きがあって怖いし、その頃は子どもが幼稚園に行っていてとにかく金がなく、高いギアとか買う余裕はなくて、「なんか高いのが多いし怖いなぁ」くらいにしか思ってなかった。

頻繁に買い物するようになったのはコロナ禍になって給付金出た頃くらいで、この頃くらいからハンモックが欲しくてたまらなくなったのと軽量な荷物で泊まりで山に行きたいと思うようになってきて、軽くて機能性の高い製品は GRiPS にある、ということでよく GRiPS のサイトを見るようになった。いまは多分 Twitter やはてブと同じ頻度で見てると思う。

GRiPS のサイトを頻繁に見る理由

ただの一地方のアウトドアショップのホームページをそんなに見る必要があるのか? ある。めっちゃ商品の入荷が早く、売れるのも早い。 GRiPS の店主がブログや Instagram で商品を紹介すると一瞬で売り切れる。自分は悩んでいるうちに売り切れてしまって結局他店舗で購入するということがたびたびあった。

GRiPS のすごさ

GRiPS のすごさをまとめるとこうだ。

  1. 実際に店主が使って良いと思ったものだけを販売している
  2. 入荷してから商品の掲載までが早い
  3. 発送が早い

UL ギアを扱ってるオンラインショップは沢山あり、 GRiPS でしか扱っていないものはそんなに多くない( AXESQUIN 別注製品とかハンモック関連の一部は AXESQUIN と GRiPS でしか買えないものがある)。なので商品力で他社を圧倒しているわけではない。総合力でとにかくすごい。

実際に店主が使って良いと思ったものだけを販売している(情報の信頼性、使い方の提案、発信力)

GRiPS はメーカーから来る商品画像や情報をそのまま載せるだけでなく(メーカー提供の画像や文章そのままのものもある)、写真を撮影して追加の画像を掲載したり、スペックがカタログ値と異なる場合は細かい注意書きが書いてあったりするし、アパレルの場合は店主永松さんの身長体重でどのサイズがちょうど良かったかが記載してあるのでとても助かる。 GRiPS のサイトの説明が Amazon や楽天のページ、もっと言うとメーカーの公式ページよりも信頼できるということがある。

さらにはお店のブログで実際に山で使っている様子や、使ったあとの感想が確認できる。無味乾燥な商品紹介という感じではなく、山で楽しんでる様子が伝わってくる。そういうのを見てると買いたくなってくるのだ。自分がハンモック欲しくなったのは完全に GRiPS のブログのせいだ。

入荷してから商品の掲載までが早い

家族だけで運営しているにもかかわらず(最近はアルバイトの人もいるみたい)、入荷した商品がウェブサイトに掲載されるまでがめっちゃ早い。ギア類は他社と同じ流通ルートを通って GRiPS に入るはずなので、ウェブサイトに掲載されるまでの速さは完全にお店の頑張りによると思われる。

GRiPS のウェブサイトには結構タイポがあるのだが、少々タイポがあったとしてもギア愛好家としては速く新商品の情報を確認できる方がうれしいはずだ。ガレージブランドのギアは買い逃すと来年まで入荷がなかったりする。なので入荷を知ったら一刻でも早く購入して安心したいのだ。

発送が早い

商品が発送されるまでのスピードが速い。リアル店舗と同時展開しているオンラインショップだと発送されるまでに 3 ~ 4 日かかることはざらにある。 GRiPS は発送までが極めて早く、午前中に買えば即日発送ということになってるが、経験上、 14 時くらいまでに買っても即日発送されて翌日には届く。ある新製品が発売されたとき GRiPS のウェブサイトに掲載されるのが一番早いのだが、発送も早いので GRiPS 以外で買うという選択肢はなくなる。

ちなみに送料は 11,000 円以上購入で無料になる(北海道除く)。ただし 11,000 円超えるために同時に買うものをどれにするかで悩んでいると買いたいものが売り切れたりするので注意が必要。

GRiPS の活況具合

年末のブログだと発送点数数万件とあった。

11,000 円で送料無料になることから購入単価は 11,000 円くらいではないかと想像する。となると発送一万件だったとして 1 億 1 千万の売上。経産省によると、小売業の従業員一人あたりの売上平均は、中小企業の場合は 1451 万円に過ぎないようだ(2.従業者1人当たりの売上高|商工業実態基本調査|経済産業省)。ファミリービジネスの小売りで、しかも週 3, 4 日くらいの営業で(山でギアのテストをしているので休みが多い) 1 億円超えはすごいのではないだろうか。

まとめ

ブルーオーシャン戦略というマーケティングの本に、市場の境界を引き直すことが大切だと書かれている。 GRiPS は情報発信に努めていること、早く品出しすること、発送をスピーディーに行うことで、商品自体は他社と同じものを扱っていながら、独自の市場を創造しブルーオーシャンを謳歌していると思われる。どれも当たり前で基礎的なことだが、組み合わせることでとても強力になるし独自の強みとなる。飛び道具がないビジネスの参考になるんじゃないかと思う。