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博多駅前

サウナイキタイのサ活と Google マップのクチコミには結構乖離があることに気が付いた。自分が行ってめっちゃ気に入って、サウナイキタイでも好意的なサ活が多い佐賀の KOMOREBI の評価が Google マップでは低い。サウナにも水風呂にも入らないのに物価の安い九州(温泉に 500 円で入れる)で風呂に 1100 円払えと言われたら高すぎると感じる人もいるのだろう。しかも混んでるし。

Google マップのクチコミはとても便利だけど、一つの施設で二つ以上の役務を果たしてる場所や客を選ぶタイプの店は評価が下がると思う。本当は自分の好みにピッタリの施設が低評価となっている可能性がある。なので評価が低いからと切り捨ててしまうのではなく、自分と似た属性の人からのクチコミを探し出して読むと実際のところの雰囲気がわかるかもしれないが、それは難易度が高すぎる。

今日のプラットフォームサービスには不幸なマッチングを回避する仕組みが必要なのだと思う。あなたはサウナ好きだからこの施設は満足できますよとか、ここは常連向けですよ的な情報が簡単にわかるようになるとか。

ただ一方でそれは Instagram で自分のようなおっさんに微エロのリール動画ばかり表示されるようなレコメンデーションとアルゴリズムによる支配がいろんなサービスに広まるということであり、それはそれで残念ではある。

もう一つの選択肢としては、釣り SNS や登山 SNS が出来たように、レビューサイトも専門分化させていくアプローチが考えられる。自分のようなアルゴリズムやレコメンデーションにあらがいたいウェブ縄文人にはそういう進化の方が向いているかもしれない。

というようなことを思ってたら一つ前の記事に言及しつつ伊藤直也さんが似たようなことを書いていた。

2ch みたいにごちゃごちゃカテゴリーがサイドバーに並んでいるのには普通の人には難しすぎるので、釣り掲示板がツリバカメラになり、登山掲示板がヤマレコや YAMAP になったんだろう。考えてみるとサウナイキタイもサウナに特化した SNS ・情報サイトだ。

サウナイキタイに話を戻すと、サウナイキタイはローカルルール満載の町銭湯に対する評価が甘いという特徴もある。サウナイキタイでベタ褒めされてる施設(「番台のおばあちゃんが優しい」、「常連の方達とほのぼの交流」などなど)が Google マップではボロクソに書かれてたりする(「番台は意地悪ばあさんそのもの」、「彫り物を入れたヤクザや半グレの常連でサウナが占有されていて入れない」などなど)。ネガティブなことは書かないというコミュニティポリシーの影響なんだろうか(以前、サ活でドラクエ集団がいたと書いたら公式アカウントから警告された)。サウナイキタイだけ見て福岡の銭湯サウナに行ったら刺青を彫った怖い人から凄まれながら入浴しなければならないという体験をしそうだ。

レコメンデーションにしても専門分化にしても塩梅が難しい。レコメンデーションはやり過ぎるとただの偏見にしかならない( 40 代男性はおっさん → おっさんはエロが好き → 微エロ動画見せとくか)し、専門分化して蛸壺化しすぎると一般的な感覚と離れたレビューが集まるようになってしまう(怖い人だらけの銭湯サウナが高評価)。昔のインターネットではこんなことに悩むことはなかった。

昔のインターネットは良かったとばかり言ってもどうにもならないが、インターネットを飯の種とする者の一人として人が増えたいまのインターネット特有の問題をどうにかしたい。

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三苫海岸

ソーシャルメディアやニュースサイトに毎日新しいコンテンツが次々に投稿されるので、インターネット上の総情報量は増えていっているはずだが、 20 年前と比べてアクセスできる情報の種類は減っているのではないかと感じる。いま何か情報を得ようとしたときに Google は以前ほど便利ではなくなってきている。 Google がキュレーションした情報にしかアクセスできないからだ。誰にもフィルタリングされていない生の情報にアクセスしようとしたら Twitter 検索の方がよっぼどよいと感じるくらいだ。

昨年末、 40L の登山用バックパックをニュージーランドのショップから購入した。日本でも売っていた商品だが、国内の正規取扱店では売り切れてて個人輸入で購入するしかなかった。商品名で Google 検索しても日本語のページしかヒットしないし、在庫ありとして表示される楽天や Amazon のページには怪しい業者が定価の何倍もの価格でふっかけて販売しているケースがほとんどで、 Google から直接海外のショップのページに辿り着くことができない。メーカーのウェブサイトから各国の取り扱い店をたどってようやく販売しているページを見つけてメールで問い合わせて購入することができた。

15 年くらい前、日本から patagonia.com にアクセスすると patagonia.jp にリダイレクトされて、アメリカで 10000 円くらいで売られているものが日本では 1.5 倍の 15000 円くらいになってて日本人はぼったくられている、というようなことを書いている記事がバズってた(ちなみにいまも patagonia.com を開こうとすると patagonia.jp にリダイレクトされる1)。当時は日本人が価格差に気がつけないようにしているのは邪悪だということで攻撃されていたのはパタゴニアだけだったが、現在では Google が似たようなことをやっていて、インターネット全体でパタゴニアと同じようなことが起こっている。日本人(日本の IP アドレスから日本語設定のブラウザーを利用している人)が海外のショップから直接物を買おうと商品名で Google 検索しても、海外のサイトはほとんどヒットしない。日本人は日本語のウェブページしか見させてもらえない。

日本語のページであっても、すべてが検索結果に表示されているわけではない。何か商品について調べようと Google 検索しても結果に出てくる店は決まっていて、 20 件程度表示されたあとにそれ以降の情報を探すことができない。楽天や Amazon 内の情報のほか、 BASE や STORES 、カラーミー、 Shopify などといった割と利用者が多いカートを採用しているページは Google ショッピングの一覧に表示されるが、そうではない自前の CMS で構築されているような地方のショップのサイトなんかは結果に出てこない。

昨シーズン、ARC'TERYX の Motus AR Hoody というパーカーを買ってとても使い勝手が良かったので、今シーズンも色違いを買おうと探してみたら主要なサイトではすでに売り切れていた。一昨年も GRiPS のサイト(カラーミーで構築されている)に掲載されたタイミングでは買い逃していてネットの海をさまよって何とか辿り着いた地方のショップのサイト(メジャーなカートシステムではない独自システムのサイト)で購入することができた。まさかそんなことあるまいと思いながら今シーズンもそのサイトを訪れて探してみたところ、何とよそでは売り切れて定価の 2 倍とか 3 倍の値段で売られている Motus AR Hoody が定価で販売され在庫が残っていた。こういう例は一度や二度ではなく、何度か経験した。

インターネットに情報が増えすぎて、 Google としても検索結果に表示するページは絞るしかないのだと思う。すると Google にとってクローリングしやすく、サイトの更新を追っかけやすいサイトばかりが検索結果に表示されるようになる。サイトのレスポンスが遅かったり、構造がいまいちイケてないサイトは検索結果に出てきづらくなる。その結果、同じようなページばかりが検索結果に表示され、一部のサイトにだけトラフィックが集中して独自サイトにはアクセスが集まりづらくなってきている可能性がある(だから自分が買ったショップのページでは Motus AR Hoody のような人気商品が売れ残っていた)。

インターネットは情報の非対称性を下げて、より取引を効率化するものだと信じてきてが、どうやらそうではないようだ。一部のページにだけアテンションが集中し、むしろ情報の非対称性が高まっている。あっという間に定価で売られていた商品が売り切れてモノの値段がつり上げられ、一方でアテンションを集められないサイトでは売れ残ってセールになっている。経済学のセオリー通りなら、市場の原理が働いてギリギリに近い競争均衡価格で商品は取引されるはずだが、実際には逆の現象(正規販売店による定価販売と一部の転売業者による価格つり上げ販売)が起こっている。

EC サイトだけでなく、ブログや個人のウェブサイトでも同じような問題が起こっているのではないかと感じる。 Google のコアアルゴリズムアップデートで自分のブログも随分 Google 検索からの流入が減った。

2015 年からの月ごとの検索流入の推移

実際には存在するのに、 Google から不遇されて存在しないことになってしまっているウェブサイトがインターネット上にはきっとたくさんあるだろう。

昔のインターネットのような、検索結果をたどればたどるほど新しい情報と出会えていた頃が懐かしい


  1. 2023-01-18 訂正: patagonia.com から patagonia.jp へのリダイレクトは2023年1月18日時点では機能していなかった 

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以前書いたはてなブックマークについての記事で、ホットエントリー入りするドメインの多様性が減ってきている、匿名ダイアリーと Togetter ばかりになってきている、なかでも最近は Togetter が匿名ダイアリーを抜いて一位になり、はてなからアテンションを奪って低俗広告を見せている、はてブを見ると Togetter の低俗広告も見ることになり問題だ、ということを書いた。

先日、はてなブックマークで特定キーワードかドメインを非表示にできるミュート機能がリリースされたが、 Togetter の広告が不快なのでミュートできてうれしいという意見が多く、低俗広告に不快感を抱いている人が結構たくさんいるようだった。

低俗広告を表示する側は広告単価が高いので効率的に稼げるし、ユーザーも表立っては苦情を言わないだろうから大したことではないと思ってるのかも知れない。しかし低俗広告は確実に訪れる人の心にストレスを与え、掲載するサイトの信用を毀損していく。

Togetter は訪問者にエロマンガの広告を見せてどうしたいのだろう。エロマンガサイトに行って有料課金サービスに登録して欲しいのだろうか? 自分の家族や友達にも同じことが出来るのだろうか? エロマンガやコンプレックスに訴えかけるようなサイトを少なくとも自分は信頼したり親身に感じることはないし、自分の親や子どもや友達にひどい広告を見せてマネタイズしたいとは思わない。

37signals は一連の従業員退職騒動で以前ほど魅力を感じなくなったが、それでも彼らのサイトに掲げてあるポリシーはよいと思う。

07. We don’t sell you

They say that if you don’t pay for what you use, then you’re the one that’s for sale. Not here. We don’t sell customer data to anyone, and we don’t use personal information to place targeted advertising either. We make a product, people pay for that product, end of transaction. Our business model is selling products, not selling you.

https://37signals.com/07

家族や友だちに見せて良心の呵責を感じることがないプロダクトを作っていきたい。

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登山道上のケルン

はてなブックマークがユーザーインタビューをするということで、はてブに対する思いをネットに発露している人達が散見された。

自分はコロナ禍になって気がつくとはてなブックマークばかり見ていてヘビーユーザーになっていた(ブックマークはあまりしてなくて見る専)。会社の人との雑談がなくなり、息抜きしたいときにははてブを見る暮らしをしている。

なのでインタビューに応募してみたのだが、どうも落選してしまったみたいなので、はてブについての考えを書いてみることにする。

はてブのバリュープロポジション

まずはじめに、はてブとは何なのか、どんなメリットがあって使っているのかを整理したい。はてブには以下の三つのバリュープロポジション(価値訴求)があると思う。

  • インターネットで何が話題になっているかがわかる
  • ほかの人がコンテンツにどのような評価をしているか確認できる
  • 見かけた情報をあとで参照するために保存しておける

インターネットで何が話題になっているかがわかる

そこを訪れればいま何がインターネットで話題になっているかがわかる。ニュースサイトに張り付いてくまなく記事を読まなくても、はてブを訪れれば話題になっている情報だけを効率的に摂取することができる。

ほかの人がコンテンツにどのような評価をしているか確認できる

SNS ・掲示板サービス的な側面であり、ほかのユーザーと交流することができる。また、ほかの人のコメントによって大まかなコンテンツの概要を把握することもでき、コンテンツの要約機能も提供している。

見かけた情報をあとで参照するために保存しておける

そのまんまブックマークサービス的側面のことだ。当初オンラインブックマークサービスはこの側面をウリにして始まったと思うが、今日、この部分よりも何が話題になっているかの確認や、他の人のコメントを読みたくて利用している人がほとんどだと思う。

はてブの中の人もその辺は認識済みのようで、はてブのウェブサイトを未ログインで訪れるとサインアップを促すダイアログが表示され、「同じページを読んだ人の感想が集まります」とメッセージが記されている。「ブックマークしておいてあとから確認できます」とか「異なるパソコン間でブックマークを共有できます」みたいなことは言ってない。正しいと思う。

はてブ未ログインダイアログ

プラットフォームとしてのはてブ

プラットフォームとしてはてブをとらえたとき、ユーザーはコンテンツ(ブックマークコメント)の生産者と消費者に二分される。コンテンツの最初のブックマーカーになること、面白いコメントを書いてスターを獲得することをモチベーションとし、公開でブックマークするのが生産者で、消費者は生産者がブックマークしたコンテンツや、生産者によるブックマークコメントを読むことを目的にはてブを訪れる。ブックマークコメントが面白ければはてなスターを送る。はてブのような CGM では生産者と消費者はスパッと二分できなくて、あるときには生産者でありあるときには消費者であるというのが特徴だ。書籍『プラットフォーム革命』ではこの生産者と消費者の価値交換のことを「コア取引」と定義している。

はてブ考(コア取引).svg

はてブというプラットフォームを成長させるためには、プラットフォーム内で価値交換の回数を増やすことが超重要だ。

なお、はてブの外にインターネットを置いてみると、はてブというのはコンテンツ消費プラットフォームという側面が見えてくる。はてブ内の生産者も消費者も、インターネット上に存在する様々なコンテンツを閲覧する立場には変わりがない。

はてブ考(プラットフォーム).svg

はてブに集まっている人は、コメントする人もしない人も、インターネット上の情報をみんなで消費しているのだ。

高い生産者率

少し前、インターネット利用者の行動がだんだん見えなくなってきているということについても記事を書いた。

あとの方になってからインターネットを使い始めた人々にとっては、インターネットとは自分から情報を差し出す場ではなく、情報を摂取する場なのだ。買い物をしたり、動画を見たり、音楽を聞いたりしているだけだ。自分でウェブサイトを持ってブログを作ったりしている我々は、今日のインターネットにおいて決してマジョリティではない。

受動的にインターネットを使うだけの人に、 1990 年代の終わりに我々インターネット老人が感じたのと同じような興奮や感動を与えられるのだろうか。多分、発想を転換しないと難しいだろう。我々が面白がったインターネットと彼らが欲しているインターネットは別のものなのだ。ただ受動的に使っているだけでより便利になり、快適になっていくインターネットをどうやって作っていくかが見えないインターネットの時代のテーマになると思う。

スマートフォン全盛時代になってインターネットを使い始めたユーザーは生産者側に回ることが少なく、ひたすらコンテンツを消費しているだけという話だ。

一方ではてブを見ると、ブックマークにコメントが付いている割合(生産者率)が高い。 2022年6月11日のホットエントリーの記事執筆時点でのコメント率を調べてみると以下のような感じだった。

コメント率

中央値 平均 最大 最小
38.1% 38.4% 76.8% 2.5%

この日のホットエントリーの 1/4 以上が 50% 以上のコメント率となっている。この生産者率は CGM サービスとしては高い方だと思う。

生産者率が高い理由とその影響

生産者率が高いのは以下の背景があると考える。

  1. コメントをしやすい設計になっている
    コメントが 100 文字一回だけで投稿の敷居が低く、また他人のコメントを読むコストも小さい。
  2. 安全地帯からコメントできる
    ブックマークされるコンテンツの著者からは直接言い返されることのない安全地帯からコメントすることができる。
  3. 無名ユーザーでも承認欲求を満たしやすい
    フォロワーの多寡に関係なく内容本意で評価されてスターをもらえるため、承認欲求を満たしやすい。例えば Twitter であればたくさんいいねをもらうためにはフォロワーが沢山いるか、拡散力のある人からフォローされていないといけない。はてブではブックマークされるコンテンツが主なので、今日登録したアカウント(お気に入られがゼロ)でもコメントが面白ければ評価される。

コメントをしやすいことと、反論されにくいこと、承認欲求を満たしやすい特性から、ときにはネガティブなコメントが集まる力学が働いてしまっていると考えられる。

ブックマークされるコンテンツ

ブックマークされるコンテンツの変化

はてブにブックマークされるコンテンツにはここ数年変化があったのではないかと思っている。昔は Photoshop や CSS テクニック、 jQuery プラグインの話のほか、 PHP やセキュリティの話題、シリコンバレーのテック界隈事情、ポール・グレアムやアーロン・シュワルツの翻訳などを見かけることが多かったが、ウェブ開発系の話題は減り、増田とニュースサイトの記事、そして Togetter が目立つようになった。

実際のところどうだろうと思って、 5/13 ~ 6/11 の 30 日間の人気エントリーページに掲載されているコンテンツのドメイン別のブックマーク数を、 2022 年から 2007 年まで遡って調べてみた。

2010 年頃までは個人のブログやウェブサイトでもランキング上位に入れていたが、 2011 年頃からまとめサイト系が勢力を伸ばしてきている様子がうかがえる。ただしまとめサイト系も転載問題や2ちゃんねるの規制強化で情報転載元がなくなりすぐに失速している。

2012 年から 2010 年と 2011 年に勢いがあった Photoshop VIP のサイトが下落し始める。 CSS や Photoshop 、 jQuery プラグイン的なアレだ。 2010 年代前半までは本当によく目にしていた。 2014 年に Photoshop VIP はランク外となる。

2010 年代中盤以降は今日と同じような顔ぶれに変わる。 ITmedia や CNET など老舗のネットニュースメディアや Lifehacker 、 GIGAZINE などの翻訳転載系・暇つぶし系ネットメディアは上位に入りづらくなった。かわりに NHK や新聞社が目立つようになる。かつて新聞社はインターネットにちゃんと取り組んでなくて、サイトにニュースはほとんどなく、ニュースはポータルサイトで読むみたいな時代が続いていた。スマートフォン全盛時代を迎えて一般ユーザーがインターネットに増えてきたので、それにあわせてマスコミも考えを変えてきたのだと思う。

なお一位と二位はここ数年はてな匿名ダイアリーと Togetter が確保している。この点については後ほど詳しく述べる。

下がるブックマークされるコンテンツの多様性

総ブックマーク数と総コンテンツ数を見るとこうなっていた。

総ブックマーク数と総コンテンツ数

両者とも右肩上がりで好ましいように見える。 2022 年の総ブックマークが下がっているが、これはタイムラグが存在するためで、この集計後もブックマーク数はじわじわ伸びると思われる。

30 日間でブックマークされるホスト(ドメイン)の数を集計してみるとこうだった。

ホスト数

2014 年頃に 400 ホスト超あったのが 2018 年に 167 ホストまで大きく落ち込み、その後少し回復したが 2017 以前の水準には戻っていない。

なお、 2018 年に総コンテンツ数とホスト数が減っているが、この年の 5 ~ 6 月にはてブはシステムリニューアルをしていたようだ。総コンテンツ数とホスト数が減っているのはその影響だろう。

ブックマーク数が多い上位 10 ホストへのブックマーク数、ブックマークコンテンツ数の集中度合いを調べたものが以下だ。

ブックマークの集中度合い

ブックマーク数もコンテンツ数も年々集中度合いが高まってきている。 2018 年頃に 50% を超えて、いまでは 6 割近くが上位 10 ホストのコンテンツで埋め尽くされている。いつはてブを開いても同じようなサイトの記事ばかり並んでいるなぁと思っていたが、それが印象ではなくデータとして裏付けられた。

また昔の話に戻るが、ホームページを作る人のネタ帳というブログがある。 CSS ネタなどの合間に話題となるような世俗的な記事を挟み、かつては 1000 ブックマーク以上つくような記事を量産していた。最近、ホットエントリーに入っていないなと思ってる方も多いのじゃないかと思う。もうなくなったのかなと思ってサイトを見に行ってみたところまだ存在していて、かつてほどではないにせよいまも記事が投稿されていた。しかしこのサイトの最近のブックマーク数は 100 にも到達していない。一桁のものも目立つ。とはいえ 1000 ブックマーク付いていた頃と比べて内容が変わったようには思えない。

ホームページを作る人のネタ帳の人気エントリー ホームページを作る人のネタ帳の最近のエントリー
ホームページを作る人のネタ帳はかつては 1000 以上ブックマークされる記事を量産していた(画像一枚目)が、最近の記事は少ししかブックマークされていない(画像二枚目)

はてブのユーザー層が変わったから? それだけではないと思う。ブックマークされるコンテンツの集中度合いが高まることによる影響だと考える。

はてブではホットエントリーに入ることでブーストされてさらにブックマーク数が伸びるという現象がある。昔は個人サイト・ブログでもホットエントリー入りが容易だったが、今日ではマスコミのニュース記事がブックマークされるコンテンツとして大勢を占めるようなり、個人サイトがホットエントリー入りしづらくなってきている。ホットエントリー入りしなければ以前と同じようなコンテンツでもブックマーク数が伸びづらくなってくる。

伝統的な経済学は有限な資源をどう配分するかを問題としてきた。資源とは天然資源のことだけではなく、商品一般とかお金のことを指すこともある。しかしインターネットの世界では限界費用がゼロなので、コンテンツ自体は無限に複製できる。有限なのは人間の時間の方だ。なのでユーザーの時間をどのように効率的に配分していくかが重要になってくる。その貴重なユーザーの時間の争奪戦に個人サイトが参入しづらくなってきている。

ユーザー層の変化

ブックマークされるコンテンツが変わったということは、ユーザー層も変わってきているのではないかと考えられる。

上述の通りホットエントリーの総合でウェブデザインや HTML 系の話題を見かけることはなくなった。かつて目立っていたソフトウェアエンジニアやデザイナーの割合は減ってきていると思われる。かわりにオフィス勤務の事務職やフリーランスの非 IT 技術者が増えている印象がある。妄想ユーザー像は以下だ。

高学歴理系男性で IT リテラシーが高く、パソコンを使う仕事をしていて仕事中に自由にインターネットを使える人が多そうだ。

思想的な特徴はリベラル寄り(立憲民主党支持)だ。ただ、ロシアのウクライナ侵攻や立憲民主党の党首交代でちょっと雰囲気が変わった気もする。

資産運用やマンション購入などの記事が定期的に話題になるのでそこそこ経済的にゆとりがある人が多そうだ。ただしめちゃくちゃリッチな人は少ない印象。関東や東海、近畿の大都市で中の上くらいの暮らしをしていて実家は朝日新聞を購読してる、みたいな感じの人が多そうだ。

はてブに寄生するウェブサイト・サービス

Togetter の脅威

2021年どこのサイトが最もはてブのホットエントリに入ったかという記事があって、ここ 3 年のブックマークされたコンテンツ数をドメインごとに集計すると、一位がはてな匿名ダイアリー(増田)で二位が Togetter のようだ。段々増田と Togetter の差が縮まり、2021年は肉薄している。

増田 Togetter
2019 14.2% 13.3%
2020 13.3% 11.3%
2021 12.4% 12.1%

先ほどの表でもここ数年、一位と二位は増田と Togetter だったが、今年は Togetter に逆転されて匿名ダイアリーが二位になってしまった。

Togetter ははてなのエコシステムにとって脅威だ。折角はてブが集めたアテンションを奪っている。個人的に最も問題だと感じるのが Togetter に表示されるエログロマンガや豊胸、手のシミ除去、精力剤、毛生え薬、歯の黄ばみ除去、鼻の毛穴につまった脂除去などのグロテスクで低俗な広告で、はてブを見ていると必然的に Togetter も見ることになり、 Togetter の悪趣味な広告がはてブの UX も悪化させている。一時に比べれば減ったが、5ちゃんねる系のまとめサイトや Twitter まとめブログのようなものは今日も生き残っていて、はてブ経由で獲得したユーザーに対して低俗な広告を表示している。 Togetter とあわせてはてブに寄生する厄介な寄生虫のようなものだと思う。

はてブからまとめサイトなどを除外したホットエントリー一覧ページを作って公開しているサイトなんてのもある。自分のブログへのリファラーとして残っているだけでも以下だ。俗悪コンテンツを削除した上で独自の広告を入れているものもある。

Togetter やこれらのはてブのデータを加工したサイトは、はてブから獲得したアテンションやはてブのコンテンツを無料で利用し、お金(広告収益)に換えている。

はてブの競合

はてブの価値訴求が「インターネットで何が話題になっているかがわかる」と、「ほかの人がコンテンツにどのような評価をしているか確認できる」、「見かけた情報をあとで参照するために保存しておける」であることは最初に述べた。競合に関してはそれぞれの価値ごとにリストアップできる。

「インターネットで何が話題になっているかがわかる」サービスとしての競合

  • Twitter

Twitter の Explorer ははてブにとって驚異だと思う。まだいまはローカライズやパーソナライズが甘い(話題が広すぎる)気がするが、もっとニッチな情報や属性に応じた情報の出し分けが進めばいまはてブを見る専で使っている層にも響くかもしれない。現実問題、一般のインターネットユーザーやテレビ局の人達は Twitter の Explorer 経由でインターネットの動きを把握してそうだ。

「ほかの人がコンテンツにどのような評価をしているか確認できる」サービスとしての競合

  • NewsPicks
    • ニュースに対する識者のコメントを読める
  • Yahoo! ニュース
    • 有象無象のコメントを読める
  • Twitter
    • いろんなユーザーのコメントを読めるがあまりまとまっていない
  • 5ちゃんねる?
    • まともな人はもう使ってなさげ

ニュース記事に他の人がどんな評価をしているか、ニュースの背景に何があるのかを知りたくてはてブを見ることが多い。はてなユーザーのなかにはその分野の識者のような人がいて、ニュースの背景にある事実を解説してくれてたりする。

その識者のコメントを読める部分を強化しているのが NewsPicks だと思う。ちょいと前に以下のような記事を書いた。

人間は見たものをどう評価・解釈するかを他の人と共有したい欲求がありそうだ。また、他の人がどう思っているかを知りたい、それを見てからコンテンツを消費するか決めたいというコンテンツ消費の二軍みたいな人たちもいる。コンテンツが無数に溢れているから、あまり面白くないコンテンツで時間を無駄にしたくないという心理が働くのだろう。

人々は情報を摂取するときに、みんなで情報を咀嚼したいという欲求があるように思う。ラピュタの放送があるときに Twitter で「バルス」と言ったり。みんなでコンテンツを消費する方が楽しいのだ。

また数多くあるコンテンツの中からどれを消費すれば良いかわからない、というのもある。自分が信頼するあの人(はてブのお気に入りユーザー、 NewsPicks の著名人)がコメントしているものを読みたい、という欲求もあるだろう。

はてブはこのような仕組みを作ったパイオニアだとは思うが、 NewsPicks はもっと洗練したやり方でこの手法をコピーしていると思う。

はてブと NewsPicks の比較.svg

はてブにはかつてははてなダイアリー、いまははてなブログや匿名ダイアリーなどがあってブックマークしたくなるコンテンツがあり、そこにブックマークコメントが集まってみんなでコンテンツを消費する循環ができていた。

NewsPicks がその仕組みを真似たのかどうかは知らないが、一般のニュースや識者によるコンテンツと企業経営者などを集めてきてコメントしてもらい、一般のユーザーを集めている。

「見かけた情報をあとで参照するために保存しておける」サービスとしての競合

  • Pocket
  • Instapaper
  • ブラウザーのネイティブブックマーク
    • Safari や Chrome にはリーディングリスト(あとで読む)機能がある

最近はブラウザーにリーディングリスト機能が実装され、クロスデバイスでブックマークを同期するようになってきているのでオンラインブックマークの役割は薄れつつある。またブラウザーのブックマークと違い、オンラインブックマークを繰り返し見ることはないはず。ショートカット的な利用はブラウザー内のブックマークの方が便利だ。

はてブはニュースサービス、コメントサービス(ほかの人の感想・要約確認サービス)としての側面を強化していくのが良いと思う。ブックマーク機能ではブラウザーのネイティブブックマークに勝てないと思う。

はてブのマネタイズ

はてブの課題は、折角集めたアテンションを Togetter などの寄生するサービスに奪われてマネタイズの機会を逃していることだ思う。ユーザーは俗悪・低劣な低俗広告を見せられ、儲かるのは寄生サービスだけだ。はてなもユーザーも損をしている。折角はてブで獲得したアテンションを外部の人達にマネタイズされないようにしないともったいない。

UA で外部サイトからブロックされてしまう危険も伴うが、有料プランを作って有料プラン加入者には AdBlock サービスを提供したり、 Reader モードでの閲覧を可能にすると良いだろう1。 Twitter Blue のようなサービスだ。 Togetter などに表示される手のシミ、インプラント、増毛、豊胸、エログロマンガなどの低俗広告を見なくて済むようになるのであれば自分は加入したい。

はてブの中でもっとも価値があると思われるホットエントリーの情報をぶっこ抜いて自サイトの広告に置き換えて流用するサイト、サービスも問題だ。 Twitter が外部クライアントの API 利用を制限してきたことは問題視されてきた。一インターネットユーザーとしては Tweetbot など好きな Twitter クライアントで Twitter を利用したいが、 Twitter 自体のマネタイズを考慮すると、(広告を入れるために)あのような API 利用制限は仕方がなかったと思う。はてブでも何らかの近しいことをして、ホットエントリーなどの貴重な情報を簡単に他者が利用できるような状況は是正しなければならないと思う。もし使いたい第三者がいるならば、登録制にしてきちんと対価を得るべきだ。

いまはもうなくなってしまったはてブの有料プラン、はてなブックマークプラスの機能を見ると、想定するターゲットユーザーがはてブのアクティブなユーザー(プラットフォームの生産者的な側面が強い人達)を対象にしていたように思う。例えばタグの一括編集とか。そんなのにお金を払いたい人は多くはないだろう。

Autify CEO の近澤さんのブログに書かれているみたいに、顧客の Burning needs をつかみに行くことが大切だ。

はてブの大多数の物静かなユーザーは何を求めているのだろうか。

はてブの未来

この記事を書いていてはてブを作った伊藤直也さんのブログ(元ははてなダイアリー)を読んだ。

直也さんは HBFav を作ったときの記事(「はてブよりソーシャルゲームじゃなかったのかセニョール」)で、今後人々は知っている人経由でニュースを読むようになるというマーク・ザッカーバーグの発言を引用している。

また以下の記事で、他人との関係性がコンテンツ価値に影響を与える( t_wada さんの食に関するツイートは無価値的な話)とも書いている。

これまでは確かにそうだったかもしれないが、今後は違うのではないかと思っている。上の方で述べたブックマークされるコンテンツの集中度合いが高まってきていることからも明らかだが、より普通の人がインターネットに増えてきていることが関係している。普通の人は SNS で気が合いそうな人を見つけてフォローしたりしない。 Instagram で誰かフォローするにしてもセレブや有名人ばかりという人は多いんじゃないだろうか。

ソーシャルなつながりによって閲覧するコンテンツを探したいと思っているのは我々インターネット老人だけなのではないかと思う。デジタルの世の中では時間が最も希少価値が高いものだと書いた。そういう時代にあって人々が求めるのは外さないコンテンツだろうと思う。ど定番の巨人・大鵬・卵焼き的なコンテンツか、その人の趣味嗜好を反映し高度にパーソナライズされたコンテンツだろう。

その上で、これからのはてブが提供できる価値は他者と共同でコンテンツを消費する部分にあるのではないかと思っている。

  • みんなと一緒に一つのコンテンツを消費することで理解を深める
  • より深くコンテンツを楽しめる
  • ソーシャルリーディング

跋文

最後に、今回のユーザーインタビューの募り方に関しては疑問がある。公式ブログでインタビュー候補者を募るとはてブ愛が強い層が応募してきてインタビュー結果に偏りが出ると思う。

日頃のはてなブックマーク開発ブログの文面からも、はてブ開発チームの皆さんが既存ユーザーを大切にしていることが伝わってくる。もちろん既存ユーザーを大切にすることは大事なのだが、はてブはインターネットが大好きなインターネットおじさんをターゲットにしているだけでは伸び代が限られると思う。

スマートフォンが普及してからインターネットを使うようになった層ははてブを通り越して NewsPicks やスマートニュースなんかを使っていそうだ。そういうライトユーザーをどう引き寄せるかがはてブの今後の成長の鍵になると思う。インターネット老人はいずれ死ぬし数も限られている。

難しいかもしれないが、はてブに登録してすぐ使わなくなった離脱ユーザーとか、そういうおとなしいユーザーを見つけてきてインタビューする方が有益なインサイトが得られると思う。少なくともインタビュー相手は応募してくるのを待つのではなく、利用状況を分析してはてブ側が話を聞きたい相手をリクルーティングしていくやり方の方がよいと思う(もし見えないところでそういうことをされてたらすみません 🙇🏻‍♂️ )。

インターネットはこのまま放っておくと我々インターネット老人がインターネットを始めた 1990 年代末期とは異なる世界になっていくと思う。自分には進化しているようで退化しているように感じられる。そのうち別に記事を書こうと思っているが、 RSS が使われなくなったかわりにメールマガジン(ニュースレター)が流行るとか、トラックバックがなくなって、誰かのブログに言及してブログを書いたときには SNS で知らせる必要があるとか、文章で読めば 1, 2 分で済む内容がわざわざ動画化されていて 10 分強じっと動画を見なければならないとか、昔のインターネットの方が進んでいた、というような状況はいくつかある。我々が失ったウェブ的な話だ。

はてブとはてなにはインターネットの先進性をキープしつつも、 2020 年代の人々のニーズにマッチする機能を提供していって欲しい


  1. ただしはてな自体が広告モデルのビジネスをやっているので蛸が自分の足を食べるみたいな状況になってしまう懸念はある 

| @雑談

銀玉

USB DAC を導入したので 20 年以上前に買った曲を聞いたりしてる。大学近くの新星堂で試聴して買った Brittle Stars というバンドが好きだということは 10 年以上前から何度もブログに書いている。今にして思うと、アメリカのインディーズレーベルのバンドの曲を郊外の住宅街の CD 屋で試聴できてたってのはめっちゃすごいことだった。

最近は天神のタワレコですら棚がスカスカで、いま自分が大学生だったらこういう音楽との出会いはなくて、アルゴリズムにおすすめされるひたすらメジャーな曲を聞くだけの人生になってしまいそう。

アルゴリズムが推薦してくるものには偶然の出会いがないと思う。「このアーティストが好きな人はこのアーティストも好きな傾向があります」ということで、必然の出会いしか起こらなくなる。統計学の前提からはみ出るような偶然の引き合わせみたいなのがないと人生つまらなくなるんじゃないだろうか。

ちなみに自分が学生の頃よく行ってた新星堂は 2014 年に閉店していた。

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インターネット以前の世の中では、コンテンツ(新聞、書籍、テレビ、映画)は公開してしまえばほぼほぼ終わりだったけど、インターネット以後の世界では人々がコンテンツをどう評価・解釈しているのかがわかるようになってきた。むしろ評価・解釈の部分の方が重要性が高まっているように思う。

昔は難しいニュースの解釈や解説は親戚の博学なおじさんがしてたけど、いまはインターネットにいろんな人が解釈や解説を載せてる。みんなでコンテンツを見るのは面白い。ラピュタのバルスやサッカーのW杯しかり。映画も家で一人で見るより映画館で知らない人と一緒に見た方が楽しく感じる。

人間は見たものをどう評価・解釈するかを他の人と共有したい欲求がありそうだ。また、他の人がどう思っているかを知りたい、それを見てからコンテンツを消費するか決めたいというコンテンツ消費の二軍みたいな人たちもいる。コンテンツが無数に溢れているから、あまり面白くないコンテンツで時間を無駄にしたくないという心理が働くのだろう。

コンテンツを評価・解釈する人と、それを見てからどのコンテンツを消費するか決める人の間でプラットフォームを作れると面白いかもしれない。

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一昔前までインターネットは常に見えるものだった。 Web 1.0 の個人テキストサイトや Web 2.0 のユーザー参加型ウェブサービスでも、ベーシック認証がかけてあったり非公開コンテンツというものもあったがこれらは例外的な存在で、インターネットでは目立つこと、オープンであること、また他者の注目を引くことが善だったしメインストリームの価値観だった(少なくとも自分はそう認識していた)。しかしその構図が崩れようとしている。インターネットがみんなのものになったからだ。

多くの人はインターネットで自分の情報をさらけ出したいなんて思っていない。これまでブログが下火になってきた理由を考察することが何度かあった。手軽に個人が情報発信できる Twitter や Instagram のような SNS が登場してきたからだと思っていた。かつてブログを書いていた人が書かなくなってきた理由としてはその通りだと思う。しかしスマートフォン時代になってからインターネット活動を始めたような人達(イノベーター理論のグラフで言うと Late Majority 以降の人達)はそもそもブログを書くということは選択肢に入らなかったはずで、こういう人達が増えてきたことで相対的にブログ執筆人口が減ってしまったと考えられる。

File:DiffusionOfInnovation.png CC BY 2.5

インターネットでは誰もが情報発信できると言われた。しかしできることと実際にやることの間には大きな壁がある。仕事で関わっているサービスでは、ユーザーが作成したコンテンツを公開するかどうかはユーザー自身が選べる仕様となっている。コンテンツを公開するユーザーが増えるほどネットワーク効果が働くし、 Google の評価が高くなり SEO 上のメリットもあるのでコンテンツ公開率を上げようと努めてきた。しかし頑張ってもコンテンツ公開率はある程度のところで頭打ちとなってしまった。この結果から二つの仮説が考えられる。公開を促す努力が足りないか、そもそも誰もコンテンツを公開しようとは思っていないか、ということだ。実は最近まで後者の観点が抜けていた。というのはインターネットでは誰しもコンテンツを公開すべきだ、という先入観があったからだ。

ここ数年での成長が著しい Netflix や Spotify でユーザーはコンテンツの公開を求められることはほとんどない。 Twitter や Facebook 、 Instagram などの CGM では基本的にはコンテンツを公開することが求められたのとは対照的だ。 Netflix や Spotify でユーザーはコンテンツを消費するだけでよいのだ。消費の仕方を Netflix や Spotify は観察し、この傾向のユーザーにはこういうコンテンツがおすすめだというアルゴリズムを洗練させていく。ハチャメチャに優れた推薦アルゴリズムにより、ユーザーは自分にマッチした未知のコンテンツに出会うことができ、益々サービスの利用を深めていく。ひたすら受動的にコンテンツを受容し続ければよいだけだ。

コンテンツの投稿・公開を求められる Twitter や Instagram でも、実は見る専( ROM )の割合が高まってきているのではないかと推測する。 以下の記事によると、 Twitter の投稿の 97% が 25% のユーザーによって行われたものだったそうだ。

さらに驚くことに、 Reply や Retweet を差し引くと投稿されるコンテンツの 18% のみがオリジナルの投稿ということらしい。やはりコンテンツを作る人の割合というのは非常に小さく、ほとんどの人はインターネット上のコンテンツを消費しているだけなのだ。

インターネットの初期時代からインターネットにどっぷり浸かってきたインターネット老人の我々のような世代がウェブサービスを設計すると、ついつい人々はインターネットで自己表現をしたいのだという前提で考えがちだ。しかしあとの方になってからインターネットを使い始めた人々にとっては、インターネットとは自分から情報を差し出す場ではなく、情報を摂取する場なのだ。買い物をしたり、動画を見たり、音楽を聞いたりしているだけだ。自分でウェブサイトを持ってブログを作ったりしている我々は、今日のインターネットにおいて決してマジョリティではない。

受動的にインターネットを使うだけの人に、 1990 年代の終わりに我々インターネット老人が感じたのと同じような興奮や感動を与えられるのだろうか。多分、発想を転換しないと難しいだろう。我々が面白がったインターネットと彼らが欲しているインターネットは別のものなのだ。ただ受動的に使っているだけでより便利になり、快適になっていくインターネットをどうやって作っていくかが見えないインターネットの時代のテーマになると思う。