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HEY Logo

Basecamp が始めたメールサービスの HEY に登録した。去年のリリース時にお試ししていたのだけど、踏ん切りが付かなくてお金を払わなかった。ただ、ソフトウェアにお金を払うことに対していろいろ思うところがあって、良いと思うものにはお金を払おうと思って HEY に登録してみることにした。

Thank you letter from Jason Fried

脱受信トレイ( Inbox )のお気楽なメール管理

HEY The Big Three

意識高く金を払って気分が良いというだけでなく、 HEY 自体がよくできてて、これまでと違ったメール体験を提供してくれる。 HEY 以前にメインで使っていた Spark も悪くはないのだが、やはり古典的なメールソフトの概念と、 Google が発明した Gmail の「受信トレイ( Inbox )」と「アーカイブ」の概念を引きずっている。とにかく全部のメールに目を通してアーカイブしていく作業に疲れてしまった。

HEY は最初のオンボーディングチュートリアルで使い方を学びつつ最低限の振り分け設定を行え、 15 通くらいメールの仕分けをするとその後大体いい感じにメールが振り分けられるようになる。 Imbox 、 The Feed 、 Paper Trail という三つの箱があって、重要なメールやまだ仕分けルール付けがされていないものは Imbox に、メールマガジンなどマーケティング的なメールは The Feed に、購入時のレシート的なメールは Paper Trail に、という風にメールを仕分けて使うことが想定されている。仕分け処理をやるとメールアドレスに紐付いて設定が保存され、以後そのメールアドレスからのメールは設定した仕分け先に入るようになる。一々受信トレイに来たものをアーカイブする必要はないし、受信トレイをすっ飛ばしていきなりアーカイブに放り込んでお得情報メールを見逃すということもない。 The Feed を余裕があるときに見ればよい。メールマガジンはチラシのようなものなのだということに HEY を使って初めて気がついた。

Gmail にも「メイン」、「ソーシャル」、「プロモーション」、「新着」、「フォーラム」というカテゴリー分けのような機能は存在するが、「これはここじゃないんだけどなぁ」と思うことがよくあるし、分類先を変えたいと思ったらフィルタールールを作って移動させないといけない。一々こんな仕分け作業をやってられない。一回メールの仕分けをしたら以後は自動的に同じルールを適用して欲しい。 HEY はそれをやってくれる。

Gmail のカテゴリ。振り分けルールがしっくりこない。

Contacts という概念

HEY Contacts

HEY には独立した Contacts がある。 iPhone の Messages などメッセージアプリだと「誰とやりとりしたか」から履歴を辿れる。「友だちのノブヒデ君とやりとりしたメールを見返したい」と思うことはあると思う。メッセージアプリで普通にできることを、メールの場合はメールアドレスなどで検索するしかなかった。 HEY の場合は Contacts にアクセスして相手の名前を選ぶだけでよい。「誰とやりとりしたか」から目的のメールを探せるのが HEY のユニークなところだ。

Contacts は自分でいい感じに整理することもできる。例えば以下のキャプチャでは、 Apple の二つのメールアドレスがある。

メールアドレスが分かれているが統合したい

Apple 社としてはメールを送る部門ごとにメールアドレスを使い分けているのだろうけど、こっちからしたらどっちも Apple なので統合してしまいたい。片方を開いて、サブのメールアドレスとしてもう一方のメールアドレスを登録する。

Contact の編集

保存すると、「このメールアドレスはすでに Contacts に存在するけど統合する?」と聞かれる。

統合するか聞かれる

ここで "Yes, merge them" を押すと統合され、 Contacts 一覧からメールを辿るときにも統合して表示される。めっちゃ便利。

統合して一つの連絡先として扱われる

その他の便利な機能

そのほかにも、同じような要件で別々に届いたメールをスレッドとしてひとまとまりにしたり、メールを開封したかどうかを調べる解析用の gif 画像を読み込まないようにしたりなど、これまでのメールソフトにはない機能がある。まだまだ使いこなし切れてない。

HEY はガワか?

これまで Gmail のメールアドレスをいろんな場所で登録してきたのでいまも大半のメールは Gmail に届いている。各所を変更して回るのは大変だし、死ぬまで毎年 $99 を払える自信がないので Gmail から @hey.com のメールアドレスに転送するようにしている。なのでいまの自分の HEY の使い方はガワというかメールクライアントみたいな感じだ。メール本体は Gmail にあってそれを HEY のインターフェース越しに読んでいる。これならガワとして、つまりメールクライアントとしてサービスを提供してもらった方がユーザーは自分のメールアドレスを持ち込みで使えてスイッチングコストが発生せずうれしい気がするのだけど、 Basecamp はそうしないみたいだ。 HEY のマニフェエストの先頭に、メールクライアントではなくプラットフォームであることが宣言されている。

A platform, not a client

To make significant, meaningful upgrades to email, you need to build your own platform. That’s why HEY isn’t an app that sits on top of Gmail, Outlook, iCloud, Yahoo, etc. HEY is a full email service provider. You don’t use HEY to check your Gmail account, you use HEY to check your HEY account. It’s its own platform, and it’s all you’ll need.

真に意味のある変革を E メールにもたらすためには、独自のプラットフォームを構築する必要があるということだ。スレッドの統合や検索の性能向上(サーバーサイドとクライアントサイドが連携した一気通貫の検索システム)など、確かにただのガワでは実現できない部分があるのだろう。

そのほかにも The HEY Way のページには過去のメールを HEY に移行できない理由など、「割り切り」コンセプトの理由が書かれている。まるで "Getting Real" や "Rework" からの抜粋かのようだ。

HEY の残念な点

概ねにおいてよくできているのだけど、一部で使い勝手が良くない点がある。

Rebuild のエピソード 272 でヒロシマさんも言っていたけど、アプリがネイティブ実装ではなく HTML で作られているせいで、特に Mac のクライアントが Mac らしくない。一覧から詳細に遷移し、もう一度一覧に戻るときにもっさりする。 HTML を再レンダリングしているからだと思われる。個々の画面の表示は別に遅くないのだけど、総合的な体験としては良くなくて、ヒロシマさんが「速いけど遅い」と言っているのは言い得て妙だ。この辺は DHH の思想 が反映されているのだろう。

iOS 版アプリにタブがなくて移動しづらいというのもそう。 Mac であればショートカットキーで Imbox 、 The Feed 、 Paper Trail を行き来できるけど、タッチ UI ではショートカットキーが使えないので一々 HEY メニューを経由する必要がある。

HEY for iOS

総じて

不満な点がないわけではないが、 HEY がこれまでのメール体験を刷新するものであることは間違いない。インターネットを始めたばかりの頃、メールは届くととてもうれしかった。 『 You've Got Mail 』というトム・ハンクスとメグ・ライアンの映画もあったくらいだ。それがいまではメールは面倒なもの、しょうもないもの、スパムや広告だらけのものという印象を持たれるようになってしまった。その認識をひっくり返そうという試みは面白い。死ぬまで使い続けるかはわからないけど、とりあえず一年分の料金は払ったので活用してみようと思う。