スラムドッグ$ミリオネア
評価 : ★★★★☆
ダニー・ボイル監督。アカデミー賞で沢山賞を取った映画。インドのスラム街出身の青年がクイズ番組の "Who wants to be a Millionaire" に出演して大金を得るまでの過程を描いたビルドゥングスロマンである。
スラム街出身の青年がなぜクイズに次々正解できるのか。インチキではないのか? これがこの映画テーマだ。ミリオネアの映画だと思っていたのに、冒頭は警察署で主人公の青年ジャマールが尋問されるシーンから始まる。不正を疑われて警察に捉えられたのだ。しかしジャマールは不正を働いてはいなかった。彼の数奇な人生が全て彼に答えをもたらしていた。たとえどんな難問であったとしても。
ムスリムのジャマールは幼い頃にヒンドゥー教徒の暴徒に母親を殺されてその後は兄のサリームとストリートチルドレンとして過ごす。途中、ストリートチルドレンを集めて組織的に物乞いに従事させる卑劣漢ママンの下で他の子ども達と共同生活を送るのだが、彼が何をしているのか(歌が上手い子の目をわざとつぶして盲目にし、人々の同情を誘おうとする)真実を知り得たサリームは弟を連れてママンの下から逃げ出す。ジャマールとサリームは同じようにヒンドゥー教徒の暴徒に両親を殺されていた少女ラティカとずっと一緒だったのだが、逃げるときにサリームは彼女を囮にして見捨てる。子供心にラティカに恋心を抱いていたジャマールは、大人になった後も彼女を捜そうとする。
やっとラティカと再会できた後も、兄やマフィアの親分にラティカを奪われるのだが、ジャマールは決してラティカのことを諦めない。マフィアの親分の下で人生を諦めながら暮らすことを余儀なくされたラティカを助け出そうと、彼は "Who wants to be a Millionaire" への出演を決めたのだった。
サリームは大人になって行くにつれて段々とずるがしこい人間になり、最終的にはマフィアになってしまう。信じられないことにジャマールが思いを寄せるラティカを奪い、弟に銃を向ける。一生許さないとジャマールは心に誓うわけだが、最後の場面でサリームはジャマールとラティカを結ばせるために自身を犠牲にする。この辺は以前見た『ミリオンズ』の流れに近いと感じた。ダニー・ボイルは兄弟ネタが好きっぽい。『ミリオンズ』をインド版に焼き直して、設定をもっと壮絶なものにしたのが今作かなー、という感じだった。
ところでママンが子どもを集めている施設には足のない子がいた。10年くらい前、メンノンを読んでいたらインドを旅行したモデルが旅の感想を書いていて、「手がない子どもが物乞いにやってくるけど、お金が集まりやすいように親がわざと我が子の手足を切ったりするらしい」と語っていたのを思い出し、複雑な気分になった。ジャマールらはムスリムであるために母親をヒンドゥー教徒に殺されるわけだが、インド社会の複雑な一端を描くことも忘れていない。
平日昼間の回だったせいか大学生カップルが多く(男一人で見に来てるのは僕だけだった)、エンドロールが終わって立ち上がるときに前の席に座っていたカップルが抱擁し合っているのが見えた。アホか。しかしラストのインド映画風ダンスは楽しいし、重い内容とは反対にエンディングは明るいので万人にお勧めできる映画だと思う。