Apple Music がロスレスやハイレゾ、 Dolby Atmos Spatial Audio に対応した。ロスレスやハイレゾは音質の向上で、 Bluetooth で音楽を聞くことが当たり前となった今日では一部の音質マニアの人にしか影響がないと思う(特にハイレゾは有線接続で USB-DAC などを利用しないとメリットを享受できない)。
一方、 Dolby Atmos の Spatial Audio (空間オーディオ)は 2000 円のイヤフォンで音楽を聞く人から数十万円の高級オーディオセットで音楽を聞く人まで恩恵がある。 Apple Music 内の空間オーディオ解説コンテンツでパーソナリティの人が「革命」と言っているけど決して大げさな言い方ではない思う。音質ではなく音の聞こえ方が変わるからだ。 Apple Music に入っている人は是非イヤフォンで Apple が用意している聞き比べ曲を聞いてみて欲しい。
聞き比べコンテンツは二つあって、一つは Marvin Gaye の "What's Going On" 、もう一つが The Weeknd の "Save Your Tears" だ。個人的には Marvin Gaye 版の方が違いがわかりやすかった。 The Weeknd の曲はシンセサイザーを多用してエフェクトがかけられていて、こういう曲は空間オーディオの効果がわかりづらい。一方で Marvin Gaye の曲は昔ながらの生演奏で、楽器の数も少ないので Dolby Atmos の威力を確認しやすい。最初はモノラルから始まり、次にステレオ、最後に Dolby Atmos となる。ステレオで二方向から聞こえていた音が、 Dolby Atmos では縦方向からも聞こえるような感覚を覚える。楽器ごとに音が細分化される感じ。これまで聞こえなかったギターのフレット移動音や、小さいパーカッションの音がはっきり聞こえるようになる。
聞き比べコンテンツのほかに「空間オーディオの世界」というプレイリストが用意されており、最近の曲から古い曲までいろんな曲が Dolby Atmos で聞けるようになっている。誰でも一つくらいは聞いたことがある曲が入っていると思うので、ここにある曲を聞いてみると違いが分かりやすいと思う。個人的には Jackson 5 の "I Want You Back" や Iggy Pop の "The Passenger" は違いが分かりやすかった。
なお、 AirPods など Apple 謹製以外のイヤフォンを使う場合は設定で「ドルビーアトモス」を「常にオン」にしておく必要がある。初期値は「自動」で、 AirPods など対応するチップを搭載したイヤフォンでしか Dolby Atmos を適用できない。
ちなみに、自分の手持ちのデバイスの対応状況を確認したところ以下の通りだった。
デバイス | 接続方式 | Mac | iPhone |
---|---|---|---|
AirPods Pro | Bluetooth | 〇 | 〇 |
Bose QuetComfort 35 | Bluetooth | △ | 〇 |
有線接続 | 〇 | 〇 | |
Bose Sound Link Mini II | Bluetooth | 〇 | 〇 |
有線接続 | 〇 | - | |
Bose Computer Music Monitor | 有線接続 | △ | - |
Bose の Bluetooth ヘッドフォンでも Dolby Atmos で再生できたが Mac との接続時には動作が非常に不安定で、どうもマルチポイント接続をしているときは Dolby Atmos モードにならないことがあるようだった。有線接続の場合は問題なく Dolby Atmos で再生される。比較的最近の iPhone や Mac であれば本体スピーカーでも Dolby Atmos で再生できるようだ。この辺のことは Apple のサポートページで詳しく説明されている。
どんなに Spotify のレコメンドが素晴らしくても、空間オーディオで音楽を聞きたければ(いまのところは) Apple Music を使わざるを得ない。自分の周囲では Spotify 派の人が圧倒的に多かったが、少なくともこの空間オーディオをきっかけに Apple Music に興味を持つ人が増えたように思う。久々に技術的なイノベーションがバリューイノベーションになる瞬間を見た気がする。