スーパーに食パンを買いに行くたびに、暗澹たる気分になる。8枚切りが売ってないからだ。
食欲中心に生活している僕は、一人暮らしを始めてからでも可能な限り朝食をとっていた。しかし一人暮らしで朝から米を炊くのは一苦労なので、パンを食べることになる。大学5年間(笑)で限りのない枚数のトーストを口にした。
そのような食生活のなかで、食パンは断然8枚切りが良いということに気がついた。6枚切りだと厚みがありすぎて、トーストしてもさくさくにならないし、食べるのに難儀する。8枚切りだと一枚あたりの厚みがちょうど良く、トーストしたときのさくさく感はちょっと筆舌に尽くしがたいものがある。
もうこれからは食パンは8枚切り以外食えないな、とすっかり8枚切りに魅了されていたというのに、熊本には8枚切りの食パンは売っていない。それどころか、5枚切りや4枚切りが食パン売り場で幅を利かせている始末。
ならばパン屋で一斤買って、その場で8枚切りにしてもらおうと注文すると、やたら嫌な顔をされる。パンを8枚切りにするなんて、こいつ頭おかしいんじゃないかという対応。一度なんて、「お客様どうされましたか?」と売り場責任者が出てきた。めるころという、南阿蘇にある有名なパン屋でさえも、8枚切りを頼んだら目茶苦茶な切り方をされて、ひどいものには穴が空いていた。
どうやら8枚切りの食パンというのは、都市生活者向けの切り方らしい。東京の他、名古屋でも8枚切りの食パンは存在していた。大阪でも8枚切り食パンの存在が確認されれば、帰納的推論により8枚切り食パンは都市生活者のたしなみ、という法則が明らかになる。
熊本市は田舎のくせに生意気にも政令都市を目指しているのだが、周辺町村と合併するよりも先に、市内のパン屋に8枚切り食パンを販売するよう指示すべきである。8枚切りの食パンさえ手に入らないくせに政令指定都市を目指すなんて笑止千万。
都市は8枚切りの食パンによって切りひらかれるのである。