今日はポエムです。
学生生活も残りわずかとなった早春のある日、僕は静岡方面にレンタカーでドライブに出かけました。夜に東京を出発して、途中コンビニの駐車場で休憩しながら伊豆へ向かいました。東京を出発したときは雪が降るそぶりなんてみじんもなかったのですが、小田原を過ぎたあたりからパラパラと雪が舞い始め、熱海の手前の峠道にはうっすらと雪が積もっていました。もう春はすぐそこという気候だったのに、とても不思議な光景でした。
ドライブの目的はスカンジナビア号という客船でした。客船と言ってももう地力で航行することはできない船で、港に停留して海上レストランとして余生を過ごしている船でした。この船は戦前から存在する客船で、戦時中はナチスドイツに接収され、戦後しばらくは北欧で実際に客船として運用されていました。その後1969年に西武グループによって買い取られて日本にやってきて、海上ホテル兼レストラン(のちレストランのみ)として利用されることになったらしいです。僕が大学を出る直前の2005年初頭はコクドの有価証券報告書偽造問題が明るみに出て、西武グループは大騒ぎしてました。事業再編の流れの中でスカンジナビアも整理されることになり、レストランの閉鎖が決定されたのです。そのニュースを見て僕は、是非ともスカンジナビア号がなくなってしまう前に一度中に入ってみたいと思ったのでした。
スカンジナビア号の中ではコーヒーとケーキを注文しました。スカンジナビア号のインテリアは趣のあるものでしたが、若干船体が傾いていました。傾いた船内の喫茶室で味のあるデザインの木製の椅子に腰掛け、年季の入ったテーブルの上でコーヒーを飲みながらケーキを食べました。しかし使い込まれた調度品と船体の傾き具合が妙にマッチしていて、不思議な居心地の良さがありました。
当時のことを懐かしく思ってスカンジナビア号のその後をネットで調べてみたのですが、Wikipediaによると中国で補修工事を受けるために太平洋を曳航されている途中で沈没したのだそうです。何だかずっと連絡をとっていなかった昔の知り合いが亡くなったのを人づてに聞いたかのような気分です。Wikipediaによると船体の強度不足のために引き上げることも不可能なのだとか。波瀾万丈の生涯を送ったスカンジナビア号の冥福を祈ります。