| @労働

ソフトウェアエンジニアからプロダクトマネージャーにジョブチェンジするにあたり、社内説明するために作った資料を公開します。プロダクトマネージャーという職種はプロダクトマネジメントについて書いてある本(シリコンバレーの PM が書いたもの)でも「定義は会社や組織によって異なる」とあるので、自分の会社でも役割を明確にしておく方がやりやすいだろうと思って作りました。プログラマー/エンジニアは How にフォーカスするけど、プロダクトマネージャーは What にフォーカスする職業だなぁと最近は思っています。

以下は HTML バージョン


プロダクトマネージャーの役割

ソフトウェアを継続的に企画・製造してユーザーのニーズを満たし、ビジネス上の成功を実現する

ビジネス上の成功とは何か?

Product/Market Fit

Product-Market-Fit.png

※図は Dan Olsen のスライドから引用

Product/Market Fit とは何か?

良い市場を見つけ、市場の要求を満たすプロダクトを作る

なぜ Product/Market Fit が重要か?

すでにある製品を買ってくれる相手を探すより、市場に存在する問題を解決する製品を作る方が簡単だから

なぜプロダクトマネージャーが必要か?

  • Market Driven な製品開発
    Market Driven でプロダクトを作っている会社の方が 31% 儲かりやすい
  • 組織のゴールが明確になり、プロダクトのリリースと収益化が迅速化される

(良い) プロダクトマネージャーは何をするのか

  • 何が作る価値があるものか、何がそうでないかを明らかにする
  • すでに市場(ユーザー)で価値の検証が済んでいるものだけを作る

エンジニア・デザイナーとどう違うのか

  • エンジニア・デザイナーは解決空間を担当
  • プロダクトマネージャーは問題空間を担当する

Product-Market Fit - 2.png

具体的な役割

Product-Execution.png

  • ユーザーヒアリング
  • 解決すべき課題の定義
    すでに存在する問題だけではなく、ユーザー自身も気づいていない問題も定義する
  • 作るものの定義
    機能要件、スコープ
  • 成功の定義とメトリクスの計測

※図は Making It Right から引用

プロダクトマネージャーが扱うデータについて

  • データ分析チームとは異なり、ありのままの現実を調べる
    線形解析とか難しい統計とか機械学習などは担当しません

まとめ

Product-Market-Fit.png

  • Product/Market Fit がミッション( Objective )です
  • どうやったら Product/Market Fit したかを含め、成功そのものを定義します
  • 成功するプロダクトを作ることに注力します( Engineering からは身を引きます)

参考ページ

| @労働

今週、 YAMAP でブラウザーでコースタイム付きの地図を表示し、自由に印刷できる機能をリリースした。

地図表示・印刷機能

開発の経緯

ユーザー要望が開発の起点だった。

YAMAP には Google Maps のようにウェブブラウザー上で登山道や登山口情報などを見る機能はなく、無料でダウンロードできる画像形式の地図は提供していたが、以下の課題があった。

  • 磁北線・縮尺の欠如
  • 任意の範囲を切り取っての拡大印刷はユーザー任せ
  • 地図の更新(コースタイム、山頂データなど)には画像データの書き出しが必要(アプリ内で使う地図に比べて更新サイクルが遅れる)

切り取り拡大の課題を解決するためにサポートチームが画像編集ソフトの使い方を教えたり、サポートスタッフ自身が地図を編集・加工して渡すことがあり、非常に負荷が高かった。

Google Maps のようにブラウザーで地図を閲覧できて、任意の範囲を自由に印刷できれば問題が解決するのではないかという見通しがあった。

デモ版を作ってもらって得た気付き

API は既存のものを組み合わせて作れそうだったので、 F/E エンジニアにデモ版を作ってもらった。

デモを使ってみて、地図を印刷するための機能が、ウェブブラウザー上で山の情報を確認し、山行計画を練る際にも便利なものであることに気がついた。

ブラウザーで登山コースを確認できるサイトは他にもあるが、百名山などメジャーな山が中心で、低山や全国津々浦々の里山までカバーしているものはなかった。

YAMAP の強みはユーザーからのリクエストで地図データを更新していくところにある。紙の地図では最低でも一年待たないと更新されない情報が随時更新され、しかも他のウェブサイトや紙地図では登山者が少なすぎて地図化されないような低山の地図まである。今回の機能追加で、そのような豊富な地図がウェブブラウザー上で閲覧して印刷することもできるようになるのだった。

デリバリー

デモ版は数日で出来たが、実際にリリースするまでの道のりが長かった。

先行して磁北線関連の問い合わせてをしてきた一部のユーザーにベータ版として機能を提供して様子をうかがいつつ、エンジニア、デザイナー、カスタマーサポート、経営陣のあいだで利害を調整し、機能、デザイン、使い勝手に磨きをかけた。

エンジニアやデザイナーに、他の仕事を差し置いてなぜこの機能をいま作る必要があるのかをわかってもらうのはとても難しかった。またデモ版のラフなデザインが与える印象が非開発者にはクオリティの低いプロダクトに見えてしまい、調整が難航することもあり、デザインの大切さを実感した。

苦労してリリースにこぎつけたあと、リリースノートを書いて PR 担当に Twitter や Facebook での広報を依頼した。普段の機能リリースよりも少しだけ大きい反響を得られたようだった。

所感

3 ヶ月前にエンジニアからプロダクマネージャーに社内でジョブチェンジしたので、今回のリリースで自分は一切コードを書いていない。初めてプロダクトマネジメントのロールに徹したリリースだった。

エンジニアであれば気にすべきことは自分のことがほとんどで、調子が上がらないときは遅くまで残ってやるとか家に持ち帰ってやるとか色々帳尻を合わせる方法はあった(もちろんいいやり方ではない)。プロダクトマネージャーは自分でコードを書くのではなく、周囲の人の間でもろもろ調整したり働きかけたりが仕事になるので、マイペースでのんびりやってあとで帳尻を合わせるということができない。かといってコミュニケーションを取り過ぎてエンジニアやデザイナーの邪魔をしてもいけない。塩梅が難しい。

もともと自分自身で手を動かしてソフトウェアを作ることが仕事だったから、エディターを開いてもドキュメントしか書かず、何も作ることがない日々に不安はあった。何か機能をリリースしても自分が作ったわけではないという虚しさが訪れるのではというような心配もあった。しかしリリースノートを書き終えたときには、これまでエンジニアとして機能をリリースしてきたときとは別の達成感があった。

プロダクトマネジメントについて書いてある『 Making It Right 』という本に、「プロダクトマネージャーは八つ裂きの刑に処されているようなものだ」というフレーズがある。手足を紐で別々の馬に繋がれて、それぞれ異なる方向に引っ張られるという刑だ。ビジネスサイド、開発チーム、サポート、ユーザーといった様々な人たちの利害を調整し、なんとか落とし所を見つけて説得し、開発チームに納得してソフトウェアを作ってもらう必要がある。リリースする前までは「プロダクトマネージャーつらすぎるだろ…」と思うこともあったが、苦労した分、リリース後の達成感はひとしおだった。

まだまだプロダクトマネージャーとしては新米で至らないところが多々あるが、ユーザー、サポートチーム、開発チームに寄り添いながら、多くの登山者に喜ばれるソフトウェアを届けていきたい。加えて、プロダクトによって山登りのハードルを下げ、まだ山に登ったことはないけれど興味がある、という人達に対して山登りの楽しみを広めていけたらと思う。

| @労働

海中ビデオデッキ

職業プログラマーになって 8 年の間に随分とジョブホッピングを繰り返してきたが、どこの会社でも評価が良くない。上司(非技術者であったことがほとんど)からは全く評価されない。なので在職時に昇給したということはほぼない。ペパボ時代にエンジニア評価制度が導入されてシニアエンジニア1になったときにががっと給料が上がったことはあったけど、あれは直属の上司ではなく技術責任者から評価されるという仕組みだったのでイレギュラーケースといえると思う。その後は転職時に増えた以外では全然給料が増えたことはない。据え置きが続いたりむしろ下がったことすらある。

しかし一度退職すると、同じチームの同僚や隣のチームの偉い人とかから良く思われていたことが判明することが多い。戻ってきてほしいとか、いなくなって困ってるとか。当然社交辞令の部分もあると思うが、全く役に立たないクソ野郎だったらそんなことを社交辞令で言われることもないはずなんで、ある程度は評価されていたといえるんだと思う。

なぜ在職中に上司から評価されないのか考えると、当時の上司がやってほしいと思ってることをやらないからだと思う。自分はチーム全体で効率が良くなるようにツールをあれこれしたり bot でガチャガチャやったりとか( Developer Productivity の向上)が好きなんで、自分の動きは会社がやりたいこと、上司がやらせたいこと(売り上げが増える何か、アプリのダウンロード数が増える何か)に直接寄与していないよう見える。

前職や現職で新しくプロジェクトが動き始めるときに何は無くともユニットテストを実行できる仕組みと Docker や CI 環境の構築をガガっとやってて、誰もがテスト書いて Pull Request 出して CI パスしてからレビュー依頼してデプロイも確認環境には自動でじゃんじゃんデプロイされて( Continuous Delivery )、誰も(新人やプログラマーでない人含む)が簡単に本番にもデプロイできる仕組みを作ったという自負がある。こういうのは直接売り上げは増やさないけど開発サイクルを早めたりチームの生産性を高めたりしていると思うが、1秒でも早く依頼したソフトウェアを納品してほしい人からはなんか勝手なことをやってるように見えるし、それが当たり前になると特にありがたみを感じられない種類のものなので評価の対象となりにくい。問題が起こって仕組みが使えなくなったときに初めてありがたみがわかる。なので在職中には評価されない。少なくとも上司からは。

加えて、自分には理想主義的なところがあって、訳の分からない指示が来たときに「そもそもそれいまやることですか」とか「会社がやるべきなのは違うことじゃないですか」と言ってしまう。そもそも論を言うので、ミーティングに参加していても荒れたり脱線してしまったりして「こいつ今これ言うのかよ…」みたいな冷たい視線を浴びることがよくある。場をかき乱す発言をするので「こいつはわかっていない」という烙印を押されてしまう。

評価が良くないと、長く同じ会社に留まり続けるメリットが得られず転職を繰り返してしまう。正直なところ転職は面接を受けに行ったり、給与交渉をしたり、退職を打診したり、仲の良い同僚と別れたり、有給がリセットされたり、人間関係を作り直したり、健康診断の履歴が失われたり、ローンを組むとき不利になったりでしんどいことが多い。できる限り同じ職場で働き続けることがハッピーだろうなぁとは思うんだけど、会社から評価されないのは不満が溜まるし、自分のような人間(間接的にだが結構会社の役に立ってる)が評価されないのはその組織にとっても良くないと思えて転職するという選択をしてしまう。良くない。会社が自分の評価を良くせざるを得ない状況に持ち込めるくらいに腕力(プログラミング能力)や胆力(度胸)をつけなければならないんだろうなぁとは思ってる。

※ なおこの記事は退職エントリーではありません。


  1. 今にして思うと当時の自分は全くシニアではなくジュニアだった https://portalshit.net/2018/10/02/we-should-hire-junior-engineers 

| @労働

Twitter で DHH が共有していた記事が面白かったので著者の許可を得て翻訳します。

ジュニアを採用しない連中はシニアに値しない、というもの。

※なお本文中で「エンジニア」はソフトウェアエンジニアのことを指して使っています。


とても成功した企業がとてつもない愚かな決定をした話をさせてほしい。

我々はジュニアなエンジニアやインターンは雇わないことにしてるんだ…子犬を飼わなければ糞の片付けをせずに済む。

Netflix

社畜連中が子犬をよくないものと見なしていること、またみんながそれを受け入れていることに唖然とした。子犬とは地球上で最もピュアな存在だ。文字通り遊びの時間とふわふわの毛でできている。孤独なこの世界の救いだ。話が脱線してしまった。

多くの企業が "経験者のみ" という採用戦略をとっている。理由を聞かれると以下のように答える。

  • ジュニアエンジニアを雇うには時間もリソースも足りないから。我々は急いでるんだ。
  • 会社にシニアエンジニアを雇う余裕があるからジュニアな人を雇う必要がない。
  • 我々はいま間違いをおかすわけにはいかないんだ。ジュニアエンジニアを雇うのはリスクが大きすぎる。
  • 我々は従業員に自律的に働いてもらってる。ジュニアエンジニアが必要とするような手取り足取りの支援をすることはできない。
  • 未経験者を雇う前にプロダクトの基盤を固めておきたい。

ジュニアエンジニアを雇うことは企業が義務感から行うもの、あるいは会社の予算に悪影響を及ぼすものという認識で、ジュニアエンジニアは負債のようなものだと言っているに等しい。慈善活動をする余裕があって補助作業要員を置けるような大企業が雇えば良いと言ってるようにもとれるが、そんなやり方はできない。

アメリカには 10 万を超えるテック企業があるけど、どこの CEO も「ミスは大した問題にならない」とか「持ってる金はじゃぶじゃぶ使いたいね」なんて言わない。だから結局「経験者のみ」と言って近道をしたつもりになっていたとしても、それはアドバンテージにはならない。会社がきちんと運営されてないことを露呈するだけだ。

ジュニアエンジニアを雇うかどうかは組織、開発体制、企業文化の健全性の物差しになる。熟練の開発者はそのことを知っている1。もしこの主張が聞き入れられなかったとしても、ジュニアエンジニアをバランス良く採用することは会社の財務を安定させる2ことは確かだ。

Preventing messes

ジュニアエンジニアは混乱を引き起こすから雇いたくないと拒否しているのであれば、それは会社に「ミスを許さない」文化があることを意図せず表明している。我が社はサーバーがダウンするたびに原因を作ったエンジニアをクビにしています、と言っているようなものだ。どんなに給料が高くてもすぐクビになる会社で働きたくないし、ミスをしないように開発者を脅すような文化はメンタルヘルスとプロダクティビティを阻害する。

こういう脅しの文化が自動化されたテストや QA 、フェイルオーバー、アクセス制限、バージョンコントロールなどを根付かせるんだとあなた言うかもしれない。しかし逆で、会社がフェイルセーフ技術を推奨し時間やリソースを与えるのであれば、「間違いを許さない」文化は不要で無価値だ。なぜならほとんどの不具合は production にリリースされる前に見つかって修正されるからだ。ジュニアエンジニアもシニアエンジニアも堅強な開発プロセスに守られてのびのび仕事ができる。

ジュニアエンジニアを雇い入れることは、過去に講じた不具合の予防策が機能しているか確認することができるまたとない機会ともいえる。彼らはシニアエンジニアよりもそういう罠にはまりがちだ。少しでも経験のあるエンジニアならみなそう言うように、ミス予防策の動作検証をしないということはあり得ないはずで、今やるかあとでやるかくらいしか選択肢がない。不具合が起こる可能性が残されているとき、ほとんどすぐにその不具合は起こる。どんなに経験があってもヒューマンエラーを完全に予防することはできない。

つまるところ少しのシニアエンジニアがいて開発基盤を固めてもらい、エラーに強い開発サイクルを構築すればよい。誰もジュニアエンジニアだけ雇えと言っているのではない。本当にミスをケアする職場であれば、ジュニアエンジニアもちゃんとフィットするし、シニアエンジニアも含めてみんなの満足度が高くなるはずだ。障害による炎上の火消しばかりやらなくて済むし、夜や週末はゆっくり休むことができる。

Saving money

Indeed.com によると、ジュニアエンジニアの給料の平均は $55,394 でシニアエンジニアの方は $117,374 だ。シニアエンジニアの給料は未熟な人の二倍以上だ。

コストには常に理由が必要だ。シニアエンジニアはジュニアな開発者よりも生産的であることが求められる。そんなに単純な話ではないが、ビジネスにかかるコストを無視するのは怠慢だし不利益を招く。

すべてのコードを書くのに長年の経験が必要なわけではない。良いコードを書く場合にだって必要ない。すべてのプログラムには、ありふれたやり方で入力と出力を結びつける「にかわのようなコード」が存在する。こういうのは誰が書いたって大差ない。時給 $28 の人に頼んでも時給 $59 の人に頼んでも結果は同じだ。もし熟練エンジニアしか雇わないのなら、そういった軽い仕事に余分なお金を払っているということになる。

コードは作るアプリケーションごとに結構変わるもので、慣れが生産性に大きく関わることがある。大抵のケースで、 6 ヶ月チームで仕事しているジュニアエンジニアと入ったばかりのシニアエンジニアでは、アプリケーションのドメインに詳しいという理由だけで前者の方が生産性が高かったりする。

先に述べた「にかわコード」とドメイン特化のコードを書くことは少なくとも開発業務の半分くらいを占める。その残りの部分で初めて熟練したシニアエンジニアの利点を活かせる。そしてたとえジュニアエンジニアであったとしても、十分な教材やベテランのメンターが付くことで難しい分野でもとても良い働きをしてくれることがある。

従ってジュニアとシニアのエンジニアでペアを組ませると二人のシニアエンジニアと同じだけの価値を発揮すると言える。しかもコストはシニア二人の場合の 75% しかかからない。もしあなたのゴールが最小の費用で最大の生産性を発揮することだとしたら、組織の中でジュニアとシニアの組み合わせを分子レベルでの最小単位とすべきだ。

加えて、シニアエンジニアばかり集めるとアルゴリズムやマイクロ秒単位の最適化、コーディングスタイルなど些細な事柄で延々議論をしてしまう傾向があることを考慮しなければならない。もし会社がシニアエンジニアだらけで、チームに堅実な意思決定プロセスが存在しなければ、数百時間分の人件費が議論のために失われることだろう。ジュニアエンジニアであればほとんどこういう問題を起こすことはない。

Building careers

ジュニアエンジニアを採用しないことによるもう一つのメッセージは、キャリア構築に対する無理解の表明だ。

これは会社の世間体とかテックコミュニティでの役割の話をしているのではない。あなたの会社をより働きやすくし、多くのエンジニアが入社し長く働いて会社に貢献してくれるようにするためのものだ。

数人のエンジニアが「やっと職位を変えることができたよ。もう職位を変えるのは嫌だ。一生シニアエンジニアでいたいね」と話しているのを聞いたことがある。しかし「給料なんて上がんなくていいよ。新しいことを学びたくもないし金輪際達成したことを評価されたくもないね」なんて言う人はいない。それに面倒なことに、向上心旺盛な野心家を引き留めるために必要なものは、無欲だが情熱的なシニアエンジニアを引き留めるのに必要なものとほとんど同じだ。仕事の成果を図るための評価軸と十分な研修用の教材、そして様々な種類の新旧のプロジェクトが必要だ。昇進を望まない少数の人に対しても、進歩や成長の意識を植え付ける必要がある。

しかしそういう連中に手をこまねかないでほしい。彼らは少数派だ。テック業界にいるエンジニアのほとんどが 40 年間もシニアエンジニアでいたいなんて思っていない。みんなソフトウェアアーキテクトだとか、チームリーダーだとか、 CTO だとか創業者になりたいと思っている。キャリア開発に関して無関心な企業は潜在的な従業員から働き先の最終候補にしか見てもらえない。

エンジニアが面接を受けに来てもっとも感銘をうける言葉の一つはこういうものだ。「やぁ、僕はチームリーダーでこの会社に入って 8 年になる。最初はインターンだったんだ」。印象に残るがとても稀だ。こういう人は会社にとって非常に貴重だ。これまでの製品ラインの変遷を知っているし、半径 100 ヤード以内の各プロジェクトのコードを見てきている。組織の中の一人一人と一緒に仕事をした経験もある。他に誰もできないようなやり方で内側から会社を変革してくれるだろう。会社はこういう人の仕事で予測不可能なほどの利益を得るだろう。なぜなら社員を 8 年間(人生の 1/10 の時間に相当する)も同じ会社にとどまらせる方法を明らかにしたからだ。これは会社の文化醸成がうまくいっていることの証だ。職場のモラルは高く、良い仕事が評価され、社内の至る所で面白いプロジェクトが待ち受けていることを示す。

「ジュニアを雇わない」は、あなたの会社が誰かのキャリアの一部になる準備ができていないことを示している。会社が停滞していると公言しているのと同じだ。「我が社は経験豊富で能力の高いエンジニアを求めていて、金さえ払えば際限なく仕事をやってくれることを期待しています」。こういう求人に応募する人もいるだろうが、彼らは最善の仕事はしてくれないだろう。

もしあなたの会社がキャリア開発に真剣に取り組んでいるならば、ジュニアお断りポリシーは採用のパイプラインをしぼませ、従業員の在職期間を短くするだけだろう。

Making great software

ジュニアエンジニアにはシニア連中が普通失ってしまったようなユニークな特徴がある。その一つが盲目的な楽観思考だ。他に喜んで指示に従うというのもある。でも最も価値が高い特徴は、ジュニアは手ぶらであるということだ。シニアエンジニアの連中はこれまで技術の盛衰や失敗したプロジェクト、崩壊したチーム、その他の開発周りの罠を見てきている。彼らはその経験から強い意見を言い、時にそれは過度に一般化され、特定チームやプロジェクトでうまく行った(あるいは行かなかった)事柄を他のプロジェクトにも当てはまると思い込む。問題から新しい学びを得ることを避けるだろうことが明白だ。

「あれがそこで使えなかったってことは知らなかったよ。でもここではうまく行くさ」と言うことがしばしばプロジェクトマネージャーの仕事になることがある。そのときジュニアエンジニアがその主張の裏付け役としてうってつけの存在になる。シニアエンジニアが長年かけて培った偏見なしに実証のためのプロトタイプを作ることができる。僕はジュニアエンジニアだったときによくこういう仕事をした。新しいツールや技術を試し、全く違うやり方で作り直したり、他の人が手を出すには早すぎると言ったことを実証試験したりしてきた。大抵僕はよりよい方法を見つけて、結果として会社のソフトウェアはかなり良くなった。ページ読み込みが遅かったところで一桁速度を改善したこともあるし、複数ページにまたがっていたものを一つにまとめ、将来のメンテナンスにかかる数週間分の工数を節約したし、時間を浪費する可能性があった不適切な技術を除外することもできた。技術的背景がまっさらでフレッシュな視点の有効性は無視できないものであることがわかる。

多くの会社が一束のシニアエンジニアを部屋に集めて問題解決方法について合意を得るための討論をさせている。しかし人件費の安い数名のジュニアエンジニアを加えるだけで一回きりの作業や野心的な取り組みに手を出しやすくなり、プロダクトに驚くべき成果をもたらすことができる。

ソフトウェアの品質に関しても、ジュニアエンジニアが感謝こそされないが重要な影響をもたらすことがある。彼らはシニアの連中が書きたがる頭でっかちでオーバーエンジニアリングなコードを書かない。

上のツイートで "凡人" と書かれているところを "ジュニア" に置き換えてみればこれがどういうことか分かるだろう。コードベースとはコードを書いている人々が重要だと思ったことが抽象化されて記録されているものだ。ジュニアエンジニアとシニアエンジニアの割合が健全であればコードはシンプルになり将来の改修も楽になる。

まとめると、テック業界で広がりを見せる「シニアのみ」の態度はジュニアエンジニアを低く評価している。これはみんな、特に未経験者の候補者を閉め出すことで採用を楽にしようという誤った考えをしている組織にとって損失でしかない。そういう会社は財務的に余裕があったとしても、無駄にしているお金と時間はとても多い。

もしあなたの会社がこういう問題に直面していたら、そしてもしあなたがジュニアエンジニアをどう雇い、どう教育すべきか知っていたら、ここで述べているベネフィットを享受することができるだろう。あなたの会社ではどんでん返しが減り、多様性が高く、競争による副作用も少なくて済むだろう。ソフトウェアは壊れにくくなり、輝きを放つようになるはずだ。もちろん、これだけがすべてではない。しかしジュニアエンジニアに対する積極的な採用方針はあらゆるレベルのエンジニアにとって働きやすさの指針になるはずだ。(翻訳ここまで)


ジュニアがいてもぶっ壊れない開発フローで思い出すのがペパボ時代のことだ。 Jenkins のセットアップがしたくて @hsbt さんがお守りをしていたプロジェクトの Jenkins 設定を参考にさせてもらってるときに、うっかりビルドを実行してしまって production へのデプロイが始まってしまった。青ざめたけど「 master からのデプロイなら全く問題ないように作ってあるので大丈夫」と言われてめっちゃカッケーなと思った。いま CI の仕組みを整えたり誰でも Hubot から簡単にデプロイしたりできるように頑張ってるののきっかけになってると思う。


  1. 訳注) だから「経験者のみ」を掲げている会社にはよい開発者がやってこないと言いたいのだと思う 

  2. 訳注) ジュニアは給料が安いから 

| @労働

Tiki 転職して一年が経った。まだまだ課題はあるが、職業エンジニアになってからでは飛躍的に成長できた一年だったと思う。大きかったのはインフラ関連の技術の習得で、 Docker での開発環境構築、 CircleCI を活用したビルドとデプロイの仕組みの構築、 Terraform を使ったインフラのコード化、オートスケールの仕組みの構築など、これまで担ってこなかったタスクを担当することができ非常に得るものが大きかった。これまで在籍してきた職場ではこれらのタスクに関して自分よりも圧倒的に優れた人たちがいたので自分が手を出せるような隙がなかった小さなスタートアップは慢性的に人手が足りていないので『隙』は無数にあり、これまでのキャリアで担当できなかったタスクに手を出しやすい。自分にはまだまだ技術的な伸び代があることがわかり、 35 歳定年説なんてちゃんちゃらおかしいわ、と思えるほどにこれからも全然エンジニアとしてやっていけそうな気がしている。とはいえあんまり調子こいてると足をすくわれると思うので、自信を持ちつつも尊大にならず良い感じに余生を過ごしたい。

写真は入社して 365 日目の午後が自宅作業になったので嫁さんに迎えにきてもらい昼飯を食べに行った路地裏カレーTikiの二階からの景色です。

| @労働

リモートワーク別に寂しくないし楽勝、みたいなコメント多いけど違和感あった。リモート楽勝という人はフリーランスとか受託の会社の人なのではないかと思う。自分のブックマークコメントは以下。

激しく同意。雑談したい、家族から家事を頼まれる、オフィスにいる連中から事業理解が低いと責められる、毎日服を着替える能力や通勤電車に乗る能力が失われる、などなど — http://b.hatena.ne.jp/morygonzalez/20180309#bookmark-359971190

「こいつはわかってない」問題

自分の場合は事業会社に所属した上でのリモートワークだった。事業会社(大抵のスタートアップもこれに含まれるはず)の場合はソフトウェアエンジニアにも事業やプロダクトへの理解が求められるので、リモートだとなかなか厳しい部分がある。事業理解は日々の MTG の他、オフィスで何気なく交わす雑談や昼飯の時なんかに醸成されるものだと思うので、リモートだと MTG での情報伝達密度が下がるし雑談や昼飯に至ってはそもそも不可能なので自分自身の事業理解も深まらない。仮にこちらに事業に対する理解があったとしても、それをオフィスにいる連中に伝えることが難しいので結局「こいつはわかってない」という烙印を押されることになる。リモートワークやってて同僚のエンジニアの皆さんとは友好関係を築けたと思うけど、 PM や上司とはなかなか良い関係になれなかった。

家庭内で仕事が軽んじられる

家族がいる人の場合は家族が「こいつ家にいてあんまり忙しくなさそうだから家事を頼もう」ということになりがち。自分の場合は子どもの幼稚園の送り迎え(バス乗り場まで)、幼稚園から帰ってきたあとの子守、洗濯物干し・取り込み、などを頼まれることが多かった。配偶者も仕事をしていて家事を分担する、ということなら当然やるけど、我が家の場合は嫁さんが習い事やヨガで忙しいので家事をやらなければならない、という感じで、自分の仕事は嫁さんの習い事よりも優先度が低いものなのだろうかと悶々とした。

社会適応能力の低下

毎日身支度をする能力、出かけていく能力も確実にむしばまれていく。転職してリモートワークからオフィスワークに切り替えて、朝の混んでる時間の電車に乗る通勤生活を再開してからの数ヶ月間は肉体的にも精神的にも非常につらかった。また家で仕事してると出歩かないので当然に運動不足になる。自分で意識してジョギングしたり体を動かしたりしないと確実に健康を損なう

自分がリモートワークに対して否定的な見解を持っているのは以上のような背景があるのであった。

良い面もある

もちろんリモートワークには良い面もある。

ワークライフバランス

子育てのための一時期や家族の看病が必要な時期には非常にありがたい制度だと思う。ワークライフバランスは非常に良好になる。

集中維持

コード書きに集中したいときにもリモートワークは便利だった。リリース前など、移動の時間も惜しんでコードを書きたいときには朝 10:00 から夜の 24:00 頃まで風呂とトイレと飯の時間以外はずっと仕事してたこともあった。それでも 10 時間は時間が空くので十分睡眠をとることはできる。これも前にブログで書いたような気がするが、いつでもオフィスに仕事しに行ける環境で、自分の裁量で週に数日リモートで仕事をするのが一番満足度の高い働き方になると思う。

地方都市に暮らしながらデラウェア法人で働ける

あとそもそも福岡では前職のような数十億円規模の資金を調達してがつんと成長しようとしているスタートアップの仕事にありつくことなんかは不可能なので、田舎に住んでいても都会のイケてる手法で仕事できてたのはリモートワークならではだったと言える(これも元記事に書いてある)。いまの職場でやってることは前職で身につけた1もの(スタートアップで働くエンジニアのディシプリン的なもの、あるいは技術顧問おじさんの素養)を土台にしているので、これは非常にありがたかった。

まとめ

ひとくちにリモートワークといってもいろいろな形態、状況があるので、↑の記事のブコメのように「リモートとか楽勝じゃね?」というコメントを読んでうかつにリモートワークを始めようとしている人がいたとしたらちょっと踏みとどまってもらいたいし、自分に向いているか、勤務先のビジネス領域・ビジネスモデルなども加味した上で決めてもらいたいと思う。

あとリモートワークだとコードレビューが甘くなりがちではないか、という問題もあるけどそれはまた別の話かもしれない。

References


  1. 当時は自分は全然成長してないと思ってた。こういうのを身につけたんだということはあとから気がついた 

| @労働

仕事面で 2017 年を振り返ると、いろいろやったけど自分でなんか作ったというのはほとんどない。 人のふんどしで相撲をとっていた一年(転職してからは半年強)だと言える。SaaS として提供されているツールを導入したり、 OSS の分析ツールを導入・構築したり、会社の仕組みを調整したりしてただけだった。各ライブラリを作ってくれた人には感謝しかない 🙏🏻

組織方面

  • チーム横断の定例 MTG 働きかけ
    • 人が増えて「あの人何やってるかわからない」「仕事を横からいきなり依頼される」などの問題が出てきたため、チーム横断の定例ミーティングを開催してお互いの状況を確認したり依頼しそうなことがあれば前もって共有するように
  • 全体ミーティングフォーマット整え&司会業
    • かつては社長が考えていることを聞くだけの場だったが、チームごとに資料を作ってみんなで発表し、議論をする場に変えた
  • Slack 導入
    • Slack に変えるまでも別のチャットツール使ってたけど、平アカウントでは大したことできず、窮屈な感じがした
    • Slack は平アカウントでも外部ツール連携したり API 使ってなんかやったりできて便利
    • ベンチャーには平社員でも必要なことをやれるようなシステムの方が向いてると思う。 Slack はデザインだけじゃなくてそういうところが優れている。フラットで雰囲気が明るい。使うのが楽しくなる。
  • Kibela 導入
    • Wiki と Blog 、 Board ( Group )の概念がちょうどよい。 Qiita:Team で厳しかったところが解消されている。
    • Kibela 導入以前、情報共有は Issue Tracker に何でも書いてる感じだったが、 Issue Tracker は Issue Tracker なので close することができない問題を扱うのに向いていない
    • タスクには落とし込めないけど社内で見解を表明しておきたい事柄を社内ブログに書いて問題意識をみんなと共有する文化を構築できた
    • Kibela は PlantUML で図を書けるのがとにかくすばらしい。込み入った処理フローをシーケンス図にすることで設計・実装がはかどる。
  • HRT について説く
  • OKR 導入
    • OKR を設定してやっていきましょうという風にした
      • とはいえ自分は HR の専門家ではないのでちゃんと運用して行くにはそういう人に入ってもらわないと厳しいと思ってる

エンジニアリング方面

  • t_wada (テスト文化根付かせ)業
    • No Test, No Merge
  • CI が回る仕組み構築業
    • テストコードは別の人が書いてたけど回せてなくて fail しっ放しになってたので気合いで通るようにして CircleCI で Pull Request ごとにビルドするようにした✌🏻
  • Pull Request テンプレート導入
    • どんな問題を解決する Pull Request なのか、何をやったのか、完了条件を明記する✅
  • Pull Request レビューフォーマット提案
  • gitignore されていた Gemfile.lock をリポジトリに突っ込み業
    • Gemfile でバージョンが固定されてた😢
  • Embulk で分析用データ書き出し業
  • autodoc で API ドキュメント自動生成の仕組み構築
  • Git Flow から GitHub Flow へブランチ戦略変更
    • 1日に何回もデプロイするような製品はこっちの方が向いてる
  • Rubocop 導入& .rubocop.yml 番人業
    • 👮🏻‍♂️
  • CircleCI から勝手に deploy される仕組み導入
  • docker-compose 導入
    • Docker は使われてたがクラスターの管理は手運用だったので docker-compose 使うようにした
  • AWS ECS 導入
  • 社内 Gyazo 導入
  • Redash 導入
    • 経営陣しか数値に関心を持ってなかったので全員が見るように毎朝 Slack に KPI を通知するようにした
    • 複雑なクエリを組んでテーブルごとに値を集計しているだけでは見えてこない値を追えるようになった
    • 独自に KPI/KGI を設定して Growth Hack に取り組むエンジニアも
  • リードレプリカ作ってデータ分析がやりやすくなる仕組み導入
    • RDS で Multi AZ にはなっていたがリードレプリカがなく重いクエリを投げられなかった
    • 複雑な JOIN クエリも書けるようになりデータ分析し放題
    • 来年は BigQuery とかも使えるようにしてさらに分析が捗るようにしたい
  • Itamae でプロビジョニング( Linux アカウントの管理)
    • Itamae 一発で Linux アカウント追加できるようにしてサーバーサイドのエンジニアしか DB にクエリを投げられない状況を改善
  • cronbot 導入
    • 他人が作ったスケジュールも更新できて便利
    • KPI 通知は redashbot と cronbot を組み合わせて実現
  • iOS と Android のダウンロード数自動取得
    • iOS 側はタイムゾーンがずれる、 Android 側は更新が異常に遅いという問題があるものの、ある程度の目安となる数値が毎朝自動で Slack に通知されるように
  • お問い合わせがあったときに Slack に通知する仕組み導入
    • お問い合わせはカスタマーサポートの人が一手に引き受ける感じだったけどみんなが関心を持って見るようになった
    • カスタマーサポートの人からエスカレーションされる前にエンジニアが回答
    • 不具合あったときはいち早く対応可能に
  • Ruby app の前段に CloudFront 導入
    • app サーバーへのリクエストが半減
    • Nginx でキャッシュしきれてなかった静的ファイルを CloudFront でキャッシュするようになり爆速に
  • サイト全面 HTTPS 化
    • CSS/JS が並列で配信されるようになり爆速に

自分でまともな OSS を作れないことにコンプレックスを感じていた時期もあったが( OSS コミュニティでの活動が評価軸となるような職場では全然評価されない)、自分が作れなくても他の人が作ってくれるので、それをいかに組み合わせて有効活用し、価値を生み出せるかに注力すればいいかなぁと思うようになった。

もちろん、 OSS 使っててバグを見つけたり不便なところあったら改善する Pull Request なんかは出していきたいと思ってる。ただ自分は頭がよくないし、抽象的な思考は苦手で個別具体的なコードを書くことしかできないので、自分で OSS を生み出すことは諦めて個別具体的な事象に特化してやっていく方が自分的にも世の中的にも幸せだよね、という風に割り切れるようになった。

こういう割り切りができるようになったのは Kaizen Platform で仕事する機会を得たからだよなぁと思う。 OSS への考え方に限らず、コードを書く部分以外で組織を変革したりだとかオペレーションの仕組みを変えたりだとかは全部 Kaizen Platform で学んだ気がする。1年11ヶ月と短い期間だったけれど、いまの自分の血となり肉となっていると思う。

Kaizen を辞めたときの記事で以下のように書いてたけど、いまのところ失敗を糧にしていい方向に向かってるのではないかと思う。

Kaizen でのリモートワーク失敗経験をどう今後の人生に生かすか。以下のツイートを繰り返し眺めながら悔い改めていきたいと思う。

Kaizen Platform という会社について - portal shit!

というわけでいまは YAMAP という会社で働いています。元同僚の pyama86 さんに比べたら知名度では全然負けててミジンコみたいなもんだと思うけど、そのうち逆転できるようにプロダクトの完成度を高めていって pyama86 さんの方が YAMAP のパクりであるような雰囲気を醸成していきたい。今後ともよろしくお願いいたします🙏🏻