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インターネット以前の世の中では、コンテンツ(新聞、書籍、テレビ、映画)は公開してしまえばほぼほぼ終わりだったけど、インターネット以後の世界では人々がコンテンツをどう評価・解釈しているのかがわかるようになってきた。むしろ評価・解釈の部分の方が重要性が高まっているように思う。

昔は難しいニュースの解釈や解説は親戚の博学なおじさんがしてたけど、いまはインターネットにいろんな人が解釈や解説を載せてる。みんなでコンテンツを見るのは面白い。ラピュタのバルスやサッカーのW杯しかり。映画も家で一人で見るより映画館で知らない人と一緒に見た方が楽しく感じる。

人間は見たものをどう評価・解釈するかを他の人と共有したい欲求がありそうだ。また、他の人がどう思っているかを知りたい、それを見てからコンテンツを消費するか決めたいというコンテンツ消費の二軍みたいな人たちもいる。コンテンツが無数に溢れているから、あまり面白くないコンテンツで時間を無駄にしたくないという心理が働くのだろう。

コンテンツを評価・解釈する人と、それを見てからどのコンテンツを消費するか決める人の間でプラットフォームを作れると面白いかもしれない。

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1 年ちょい前に使い始めた HEY は結局 1 年で使うのをやめた。

第一に、メールをフル活用した生活を送っていないので不要かなという判断になった。 HEY は効率的にメールを読んだり分類したりするだけでなく、メールを書く機会も多い人にとって最適化されている気がする。現在の自分はメールを書く機会はまれで読むのがもっぱらだ。 Imbox 、 The Feed 、 Papertrail という分類・仕分けは便利だしメールを効率的に処理することができるが、これがないと困るというほどではなかった。もし公私ともにメールをフル活用していて、仕事のメールも HEY で扱えるような人であればメリットはあるだろう。

第二に、Basecamp は従業員の大量離職イベントがあって個人的には魅力を感じなくなってしまった。会社を応援したくて使っていたところもあったので、会社に魅力を感じなくなるとソフトウェアにも魅力を感じなくなった。


メールを変革しようという試みは素晴らしいと思う。メールといえば広告かスパムばかりという現状はクソみたいだ。あまりにもしょうもないメールが多すぎて、こちらから誰かにメールを送ってもちゃんと返事が来ないことが多く、返事が来ればラッキーかなというほどのものに成り下がっている。

今日、大抵のコミュニケーションはどこかのプラットフォームの中で行われることが多くなっている。 Facebook Messenger だったり LINE だったり Instagram だったり WhatsApp だったり。ウクライナ侵攻関連のニュースのネタ元は大抵 Telegram で、ロシア文化圏でも何らかのプラットフォーム上でコミュニケーションが行われていることがわかる。

メールが本来の役割を果たしていればそういったプラットフォームをわざわざ使う必要はないはずなのに、簡単に送れすぎる仕様のせいで多くの人の受信箱が関係のないメール(広告やスパム)であふれかえってしまっている。その問題を HEY は解決しようとしたが、年間 $99 で普通の人が手を出すには値段が高すぎる。これでは意識が高い人しか使おうとしない。

意識が高い人が使うだけではメールのダメな部分は完全に解決されない。メールはネットワーク効果が働くから、多くの人がまともな状態でメールを使えないと価値がない。意識が高い人が HEY を使ってその人の受信箱が正常化されても、その人がコミュニケーションを取る必要がある相手が意識が低くて一般的なメールを使っていたら、その人にメールを送っても受信箱がしょうもないメールであふれていて大事なメールを読んでもらえないかも知れない。いつまで経ってもメールの復権にはつながらない。意識の高い人の問題を解決するためには、意識の低い人の問題も同時に解決してあげないとダメだということだ。

HEY は多くの人に使ってもらって初めて意味のあるものになると思う。そこからすると少々値段が高すぎる。フリーミアムにして一定は無料で使えるというモデルの方が良かったのかもしれない。 Basecamp は会社の哲学的にフリーミアムを嫌うだろうが、メインの顧客である意識の高い人たちの満足度を上げるためにはプラットフォーム自体が巨大であることが重要なので、一部は無料にして多くのユーザーを獲得する必要があったと思う。

ググってみたら、 HEY は大きくは成功しないだろうと書いている人がいた。 HEY は旧来型のメールと比べて 10 倍早くないし革新的でもない。そして Early Majority 以降のユーザーの獲得戦略がない(自分が書いてる内容に近い)。

ソフトウェアは機能が優れているだけではつくづく不十分だと感じる。ビジネスモデルと機能がカチッとフィットしていないと成功できない。

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一昔前までインターネットは常に見えるものだった。 Web 1.0 の個人テキストサイトや Web 2.0 のユーザー参加型ウェブサービスでも、ベーシック認証がかけてあったり非公開コンテンツというものもあったがこれらは例外的な存在で、インターネットでは目立つこと、オープンであること、また他者の注目を引くことが善だったしメインストリームの価値観だった(少なくとも自分はそう認識していた)。しかしその構図が崩れようとしている。インターネットがみんなのものになったからだ。

多くの人はインターネットで自分の情報をさらけ出したいなんて思っていない。これまでブログが下火になってきた理由を考察することが何度かあった。手軽に個人が情報発信できる Twitter や Instagram のような SNS が登場してきたからだと思っていた。かつてブログを書いていた人が書かなくなってきた理由としてはその通りだと思う。しかしスマートフォン時代になってからインターネット活動を始めたような人達(イノベーター理論のグラフで言うと Late Majority 以降の人達)はそもそもブログを書くということは選択肢に入らなかったはずで、こういう人達が増えてきたことで相対的にブログ執筆人口が減ってしまったと考えられる。

File:DiffusionOfInnovation.png CC BY 2.5

インターネットでは誰もが情報発信できると言われた。しかしできることと実際にやることの間には大きな壁がある。仕事で関わっているサービスでは、ユーザーが作成したコンテンツを公開するかどうかはユーザー自身が選べる仕様となっている。コンテンツを公開するユーザーが増えるほどネットワーク効果が働くし、 Google の評価が高くなり SEO 上のメリットもあるのでコンテンツ公開率を上げようと努めてきた。しかし頑張ってもコンテンツ公開率はある程度のところで頭打ちとなってしまった。この結果から二つの仮説が考えられる。公開を促す努力が足りないか、そもそも誰もコンテンツを公開しようとは思っていないか、ということだ。実は最近まで後者の観点が抜けていた。というのはインターネットでは誰しもコンテンツを公開すべきだ、という先入観があったからだ。

ここ数年での成長が著しい Netflix や Spotify でユーザーはコンテンツの公開を求められることはほとんどない。 Twitter や Facebook 、 Instagram などの CGM では基本的にはコンテンツを公開することが求められたのとは対照的だ。 Netflix や Spotify でユーザーはコンテンツを消費するだけでよいのだ。消費の仕方を Netflix や Spotify は観察し、この傾向のユーザーにはこういうコンテンツがおすすめだというアルゴリズムを洗練させていく。ハチャメチャに優れた推薦アルゴリズムにより、ユーザーは自分にマッチした未知のコンテンツに出会うことができ、益々サービスの利用を深めていく。ひたすら受動的にコンテンツを受容し続ければよいだけだ。

コンテンツの投稿・公開を求められる Twitter や Instagram でも、実は見る専( ROM )の割合が高まってきているのではないかと推測する。 以下の記事によると、 Twitter の投稿の 97% が 25% のユーザーによって行われたものだったそうだ。

さらに驚くことに、 Reply や Retweet を差し引くと投稿されるコンテンツの 18% のみがオリジナルの投稿ということらしい。やはりコンテンツを作る人の割合というのは非常に小さく、ほとんどの人はインターネット上のコンテンツを消費しているだけなのだ。

インターネットの初期時代からインターネットにどっぷり浸かってきたインターネット老人の我々のような世代がウェブサービスを設計すると、ついつい人々はインターネットで自己表現をしたいのだという前提で考えがちだ。しかしあとの方になってからインターネットを使い始めた人々にとっては、インターネットとは自分から情報を差し出す場ではなく、情報を摂取する場なのだ。買い物をしたり、動画を見たり、音楽を聞いたりしているだけだ。自分でウェブサイトを持ってブログを作ったりしている我々は、今日のインターネットにおいて決してマジョリティではない。

受動的にインターネットを使うだけの人に、 1990 年代の終わりに我々インターネット老人が感じたのと同じような興奮や感動を与えられるのだろうか。多分、発想を転換しないと難しいだろう。我々が面白がったインターネットと彼らが欲しているインターネットは別のものなのだ。ただ受動的に使っているだけでより便利になり、快適になっていくインターネットをどうやって作っていくかが見えないインターネットの時代のテーマになると思う。

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はてブコメント、漫画は高いという意見に対して「貧乏すぎでは?」「買いすぎでは?」「考えを改めた方がよい」「どうせタダで読みたいだけだろ」というコメント付いているけど、漫画にいくら払えるかは人それぞれだし、そもそも無料で読みたいという意見は大勢ではない(広告入ってて良いので無料で読みたいというコメントは一つだった)。漫画は安い派の意見の方が一方的に見える。

単位時間あたりの費用で漫画が他の娯楽より高いのは事実だと思う。漫画はコミックが一冊 600 円くらいするが、一冊 15 分くらいで読み終わってしまう。 1 分あたりのコストは 600 ÷ 15 = 40 円だ。映画は 2000 円払って 120 分楽しめる。分単位のコストは 2000 ÷ 120 = 16 円だ。漫画と同じくらいの金額で買える文庫本の小説なら読むのに 3 、 4 時間くらいかかるし、 1 分あたりのコストは 3 円。一冊 1500 円の単行本でも 8 円。漫画の 40 円は高すぎる。今年はうっかり一巻無料キャンペーンに釣られて空母いぶきを読み始めて続きが気になってしまい、全巻買ってしまって 1 万円くらい使ってしまった。漫画は娯楽としての経済効率が悪過ぎる。

動画配信以前、セルビデオは一本一万円くらいしたし、セル DVD も 4000 円くらいが相場で高すぎた。なのでレンタルが主流だったし、光学ディスクのレンタル屋だった Netflix が配信会社に進化した。漫画は昔はレンタルあったし今も細々と存在してるけど多分最も利用されてるのは漫画喫茶だと思う。

漫画は速く沢山読めて沢山読まないと話が完結しない特性があるから漫喫にベストマッチだと思う。時間課金なので速く読める人ほどお得。漫画は嵩張るからレンタルして家に持ち帰りまた返しにくるのは面倒だけど、漫喫ならその場で手に取ってすぐ読める。買うと保管場所に困る問題も解決されている。

少し調べた限り、漫画喫茶は著作権者にお金を払っていない(少なくとも法的には払う義務がない)ようだった。

長らく著作物には貸与権が認められていて、音楽や映画はレンタルされる度に著作権者に収益が発生していたが、書籍は貸与権の対象外だったようだ。 2005 年に貸与権が書籍に対しても認められるようになり、貸本屋(レンタルコミック含む)は著作権料を支払わなければならなくなったようだ。

ただし漫画喫茶に関しては、文化庁が店舗内での閲覧は「貸与」に値しないとの見解を示したことから、貸与権の対象となっておらず、漫画喫茶には著作権料を払う義務がない状況のようだ。

こうやってみると漫画の著作権者たちの真の敵は漫画喫茶ではないかと思う。 2021 年 3 月期の決算で、業界一位の快活CLUBは漫画喫茶部門で 484 億 9900 万円の売上があるようだ。

漫画のサブスクリプションサービスを始めることで、現状漫画喫茶に流れているお金の大部分を漫画家・出版社は回収できるだろう。コロナ禍なのだし、漫画喫茶に行かずにサブスクリプションで手軽に読めるようになれば利用したいという人はかなりいそうだ。

サブスクリプションを始めるにしても、新作はサブスクリプションでは読めないような設計にすることで買い切り型のモデルへの悪影響は軽減できると思われる。動画配信もコロナ禍前は上映と同時配信みたいのはなかったが、漫画でも同じようなことができるはずだ。サブスクリプションで読めるのは旧作中心で配信期間も限定すれば、はてブコメント欄でマウンティングしてるような漫画愛好家は新刊発売後に購入して読みそうだし、サブスクリプションで気に入っていつでも読めるようにしたいと思った人も買い切り版を購入するだろう。

いい具合に制度設計できれば今より漫画家・出版社側の利益が減ることはないだろうし、読者の裾野を広げるという意味でも、手頃な価格で漫画を読めるサブスクリプションサービスができて欲しい。未来の漫画業界のためにも漫画のサブスクリプションは必要なのではないかと思う。

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自民党総裁選前に政治のことが気になり始めてよくニュースを読むようになった。しかし最近はどこの新聞社も記事を有料化していて、ネットでニュースを読むためにはどこかでお金を払う必要があった。学生の頃は日経新聞の記者になりたくて日経新聞を好んで読んでいた(最終面接で落ちた)。数年前に一時期日経新聞を宅配で取っていたこともあるので日経電子版を検討したが、やはりちょっと高い。新聞に書いてあるニュースが仕事に直結するような職種であれば元が取れるのかもしれないが、一日に 20 分から 30 分程度、かるーく記事を流し読みする自分には 4000 円は払えない。もうちょっと手軽に始められないものか。調べてみたところ毎日新聞が出てきた。毎日新聞も好きな新聞で、入社試験を受けたことがある(二次面接で落ちた)。初月 99 円キャンペーンをやっている上に月の購読料もスタンダードプランであれば 1000 円程度で財布に優しい。

自分が新聞社の入社試験を受けていた 15 年以上前も新聞記事はネットで配信されていた。しかし数字や英文字は全角アルファベットだった。記事内の URL は http://www.example.com のような記載でコピペしても該当 URL にアクセスできないという厳しい状態だった。いまの新聞社のサイトも似たような感じだろうと思っていたが予想に反してだいぶモダンだった。記事の英数字は基本半角で、 URL はコピペ可能になっている。有料プランの LP はわかりやすく、支払いは PayPal で行えるし、興味がある記事のジャンルを選択する仕組みもある(ただしレコメンドの仕組みは弱そうだ)。

記事を全文検索したり、興味がある連載記事をフォローしたり、ブックマークしたり、閲覧履歴を確認できたりと、紙の新聞ではできなかったけどウェブサイトなら当然できるような機能が当たり前に提供されているのがうれしい。特に自分が便利だと思ったのが関連するニュースを時系列に閲覧できる機能だ。こんな感じ。

毎日新聞の「時系列で見る」機能

総裁選のときはめまぐるしく毎日情勢が変わっていて、総裁選出馬表面をした菅前首相が翌日には出馬を撤回するなど、単発でニュース記事を読んでいたのではわかりにくかった事実関係を、「時系列で見る」ことで理解しやすかった。

むかしは新聞は記事というコンテンツを作ることに特化していた。しかしウェブの時代はそれでは立ち行かなくなるだろう。スマートニュースや Google ニュースといった配信に特化したプラットフォームもある。新聞社のウェブサイト自体がユーザビリティーや UX を重視し始めるようになってきているのだと思う。とても良いことだと思う。

毎日新聞に話を戻すと、スタンダードプランは 1000 円で記事がすべて読めて、ウォールストリートジャーナルの記事も読める。朝日新聞だと 1000 円程度のプランでは読める記事の数が月 50 本までに制限されるのでめっちゃお得だ。自分の学生時代もそうだったが、毎日新聞は記事を書いている記者の名前が表示される記名記事の割合が多いのも好印象で、ウェブサイトだと記者名で検索して気に入った記者が書いた記事で絞り込んでニュースを読むこともできる。何か有料でニュースサービスに契約したいけどあまり高いのは嫌だなと思っている人には毎日新聞をオススメします。加入して良かった。

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Basecamp で従業員の大量離職騒動が起きていた。原因は社内で社会問題についての議論を禁止するという制度変更への反発。

この制度変更の背景にはさらにややこしい問題があったようだ。

この騒動を経て、以前 HEY を使ったときの感想として書いた以下の記事のことを思い出した。

ソフトウェアに必要なのは理念ではなく機能だ。そのことは Jason Fried も書いている。

6. No forgetting what we do here. We make project management, team communication, and email software. We are not a social impact company. Our impact is contained to what we do and how we do it.

ただ、 Jason Fried も DHH も本、 Twitter 、ブログで業務の一環かのように他社のソフトウェアやビジネスモデルに難癖を付けたりと舌鋒鋭い。その一方で従業員に社内で社会問題を議論をさせないのは矛盾しているような気がする。

以前書いた記事では、 Flickr は理念のみで機能が不足しているということを指摘した。 Basecamp の HEY については理念だけでなく、それを裏付ける機能があると支持した。しかし今回の騒動を見るに、理念の部分がだいぶ強すぎたと感じる。理念に引き寄せられて opinionated な人たちが集まったが、理念を表明して良いのは経営者だけで従業員は仕事だけして下さいと言われると反感を買うのは当然だろう。

理念や社会に対する意見があることは結構なことだと思う。しかしそれを声高に表明して回ることはソフトウェア会社の仕事ではないと思う。ソフトウェア会社の仕事はただ一つで、その理念に基づいたソフトウェアを作ることなはずだ。

そもそもソフトウェアで社会を変えられるのだろうか。自分はそうは思わない。世の中がソフトウェアをきっかけにして変わるだけだ。ソフトウェアは人々の内側にあった曖昧模糊とした欲求を具現化して解消しただけに過ぎない。 Uber で車と時間を持て余している人がお金を得られるようになったし、全然タクシーがつかまらなくて困っていた人はふっかけられることなく車で移動できるようになった。これは元々潜在的に存在していた需要と供給を顕在化させて結び付けただけだに過ぎない。どんなに画期的なソフトウェアやサービスも、人々に必要だと思われなければ意味がない。

崇高な理念や信念があったとして、それをいかにソフトウェアに吹き込むかがソフトウェア企業のやるべきことだ。自分は Rails エンジニアとしてソフトウェア業界に橋頭堡を築いたので DHH のことは尊敬しているけど、 Basecamp には人々に求められる良いソフトウェアを作ることにフォーカスして欲しいし、自分もそういう姿勢でソフトウェア開発に携わっていきたい。

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HEY Logo

Basecamp が始めたメールサービスの HEY に登録した。去年のリリース時にお試ししていたのだけど、踏ん切りが付かなくてお金を払わなかった。ただ、ソフトウェアにお金を払うことに対していろいろ思うところがあって、良いと思うものにはお金を払おうと思って HEY に登録してみることにした。

Thank you letter from Jason Fried

脱受信トレイ( Inbox )のお気楽なメール管理

HEY The Big Three

意識高く金を払って気分が良いというだけでなく、 HEY 自体がよくできてて、これまでと違ったメール体験を提供してくれる。 HEY 以前にメインで使っていた Spark も悪くはないのだが、やはり古典的なメールソフトの概念と、 Google が発明した Gmail の「受信トレイ( Inbox )」と「アーカイブ」の概念を引きずっている。とにかく全部のメールに目を通してアーカイブしていく作業に疲れてしまった。

HEY は最初のオンボーディングチュートリアルで使い方を学びつつ最低限の振り分け設定を行え、 15 通くらいメールの仕分けをするとその後大体いい感じにメールが振り分けられるようになる。 Imbox 、 The Feed 、 Paper Trail という三つの箱があって、重要なメールやまだ仕分けルール付けがされていないものは Imbox に、メールマガジンなどマーケティング的なメールは The Feed に、購入時のレシート的なメールは Paper Trail に、という風にメールを仕分けて使うことが想定されている。仕分け処理をやるとメールアドレスに紐付いて設定が保存され、以後そのメールアドレスからのメールは設定した仕分け先に入るようになる。一々受信トレイに来たものをアーカイブする必要はないし、受信トレイをすっ飛ばしていきなりアーカイブに放り込んでお得情報メールを見逃すということもない。 The Feed を余裕があるときに見ればよい。メールマガジンはチラシのようなものなのだということに HEY を使って初めて気がついた。

Gmail にも「メイン」、「ソーシャル」、「プロモーション」、「新着」、「フォーラム」というカテゴリー分けのような機能は存在するが、「これはここじゃないんだけどなぁ」と思うことがよくあるし、分類先を変えたいと思ったらフィルタールールを作って移動させないといけない。一々こんな仕分け作業をやってられない。一回メールの仕分けをしたら以後は自動的に同じルールを適用して欲しい。 HEY はそれをやってくれる。

Gmail のカテゴリ。振り分けルールがしっくりこない。

Contacts という概念

HEY Contacts

HEY には独立した Contacts がある。 iPhone の Messages などメッセージアプリだと「誰とやりとりしたか」から履歴を辿れる。「友だちのノブヒデ君とやりとりしたメールを見返したい」と思うことはあると思う。メッセージアプリで普通にできることを、メールの場合はメールアドレスなどで検索するしかなかった。 HEY の場合は Contacts にアクセスして相手の名前を選ぶだけでよい。「誰とやりとりしたか」から目的のメールを探せるのが HEY のユニークなところだ。

Contacts は自分でいい感じに整理することもできる。例えば以下のキャプチャでは、 Apple の二つのメールアドレスがある。

メールアドレスが分かれているが統合したい

Apple 社としてはメールを送る部門ごとにメールアドレスを使い分けているのだろうけど、こっちからしたらどっちも Apple なので統合してしまいたい。片方を開いて、サブのメールアドレスとしてもう一方のメールアドレスを登録する。

Contact の編集

保存すると、「このメールアドレスはすでに Contacts に存在するけど統合する?」と聞かれる。

統合するか聞かれる

ここで "Yes, merge them" を押すと統合され、 Contacts 一覧からメールを辿るときにも統合して表示される。めっちゃ便利。

統合して一つの連絡先として扱われる

その他の便利な機能

そのほかにも、同じような要件で別々に届いたメールをスレッドとしてひとまとまりにしたり、メールを開封したかどうかを調べる解析用の gif 画像を読み込まないようにしたりなど、これまでのメールソフトにはない機能がある。まだまだ使いこなし切れてない。

HEY はガワか?

これまで Gmail のメールアドレスをいろんな場所で登録してきたのでいまも大半のメールは Gmail に届いている。各所を変更して回るのは大変だし、死ぬまで毎年 $99 を払える自信がないので Gmail から @hey.com のメールアドレスに転送するようにしている。なのでいまの自分の HEY の使い方はガワというかメールクライアントみたいな感じだ。メール本体は Gmail にあってそれを HEY のインターフェース越しに読んでいる。これならガワとして、つまりメールクライアントとしてサービスを提供してもらった方がユーザーは自分のメールアドレスを持ち込みで使えてスイッチングコストが発生せずうれしい気がするのだけど、 Basecamp はそうしないみたいだ。 HEY のマニフェエストの先頭に、メールクライアントではなくプラットフォームであることが宣言されている。

A platform, not a client

To make significant, meaningful upgrades to email, you need to build your own platform. That’s why HEY isn’t an app that sits on top of Gmail, Outlook, iCloud, Yahoo, etc. HEY is a full email service provider. You don’t use HEY to check your Gmail account, you use HEY to check your HEY account. It’s its own platform, and it’s all you’ll need.

真に意味のある変革を E メールにもたらすためには、独自のプラットフォームを構築する必要があるということだ。スレッドの統合や検索の性能向上(サーバーサイドとクライアントサイドが連携した一気通貫の検索システム)など、確かにただのガワでは実現できない部分があるのだろう。

そのほかにも The HEY Way のページには過去のメールを HEY に移行できない理由など、「割り切り」コンセプトの理由が書かれている。まるで "Getting Real" や "Rework" からの抜粋かのようだ。

HEY の残念な点

概ねにおいてよくできているのだけど、一部で使い勝手が良くない点がある。

Rebuild のエピソード 272 でヒロシマさんも言っていたけど、アプリがネイティブ実装ではなく HTML で作られているせいで、特に Mac のクライアントが Mac らしくない。一覧から詳細に遷移し、もう一度一覧に戻るときにもっさりする。 HTML を再レンダリングしているからだと思われる。個々の画面の表示は別に遅くないのだけど、総合的な体験としては良くなくて、ヒロシマさんが「速いけど遅い」と言っているのは言い得て妙だ。この辺は DHH の思想 が反映されているのだろう。

iOS 版アプリにタブがなくて移動しづらいというのもそう。 Mac であればショートカットキーで Imbox 、 The Feed 、 Paper Trail を行き来できるけど、タッチ UI ではショートカットキーが使えないので一々 HEY メニューを経由する必要がある。

HEY for iOS

総じて

不満な点がないわけではないが、 HEY がこれまでのメール体験を刷新するものであることは間違いない。インターネットを始めたばかりの頃、メールは届くととてもうれしかった。 『 You've Got Mail 』というトム・ハンクスとメグ・ライアンの映画もあったくらいだ。それがいまではメールは面倒なもの、しょうもないもの、スパムや広告だらけのものという印象を持たれるようになってしまった。その認識をひっくり返そうという試みは面白い。死ぬまで使い続けるかはわからないけど、とりあえず一年分の料金は払ったので活用してみようと思う。