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Castro

最も優れたポッドキャストアプリ

ポッドキャストアプリは Castro を使っているということを以前書いた。

Castro はポッドキャストマニアがポッドキャストマニアのことを考えて作ったアプリで、ヘビーリスナーのかゆいところに手が届くような作りになっている。自分は 2018 年にサブスクリプションに登録してからずっと有料契約を続けている。

Castro の特徴

Castro の特徴

Castro の特徴は以下の通りだ。

ほかのポッドキャストアプリにはない特徴的で美しい UI デザイン

Castro の UI デザイン

  • 音楽プレーヤーの UI をそのまま引き継いだのではない、ポッドキャストの再生に最適化された UI デザイン

キュー( Queue )とインボックス( Inbox )の仕組み

Castro の Queue システム

  • エピソードの受信箱(=インボックス)があり、どのエピソードを次に再生するか選べる(キューの仕組み)
  • 基本的にはキューに入っているエピソードを上から順番に聞いていく使い方
  • お気に入りの番組は常にキューの先頭に入れる、などの設定もできる

  • 購読しているエピソードの概要を検索できる仕組み
  • 購読しているポッドキャストの過去エピソードを聞きたいときにとても便利

Sideloading

  • 動画ファイルから音声を抜き出してポッドキャスト化できる
  • YouTube 動画のほか、会社のミーティングの録画をポッドキャスト化してあとで聞くこともできる

プッシュ通知

プッシュ通知

  • 購読しているポッドキャスト番組の新着エピソードがあるときにプッシュ通知で知らせてくれる(いまはほかのアプリにもあるかもしれない)

不調

このようにポッドキャスト再生アプリとして非常に完成度が高い Castro なのだが、実は 2023 年の年末から 2024 年の年始にかけてサーバー障害を起こしてサービス停止状態に陥ってしまい、一時はほぼ死んだ状態になってしまっていた。

サービス運営を引き継ぐ会社が現れて復活したが、最も優れたポッドキャストアプリがなぜこういうことになってしまったのかを、自分の所感を交えながら書いてみたい。


Castro のストーリー

Castro は立ち上げ以来、 Supertop という会社(インディーデベロッパー)によって運営されてきた。彼らは Padraig と Oisin というアイルランド生まれのプログラマーとデザイナーのコンビだった。 App Store が始まって間も無い頃からアプリを出していた古参デベロッパーで、他の会社の仕事を手伝うかたわらで自社制作のアプリを作っていた。

App Store が始まった頃は無料アプリが中心で、サブスクリプションはなく1、有料アプリの値段はべらぼうに安くて 100 円とか 300 円という売価が中心だった2。儲けを出すのはかなり大変だったみたいだ。

2016 年に App Store でサブスクリプションの対象範囲が拡張されたが3、 Castro もようやくサブスクリプション対応バージョンをリリースしようというタイミングの 2018 年に、 Padraig と Oisin は Tiny という投資会社にアプリを売却している。二人は Tiny のスタッフとして開発を行なうことになった。

投資会社だがベンチャーキャピタルではない Tiny

Tiny という会社はデザイン会社の MetaLab を創業した Andrew Wilkinson によって経営されている投資会社で、ベンチャーキャピタルというよりインディーデベロッパーのビジネスを買い取って成長させることをビジネスモデルとしているようだ。

MetaLab はスタートアップ界隈では有名なデザイン会社で、初期の Slack のデザインを請け負って成功を収めたらしい。

なお Andrew Wilkinson は MetaLab を始める前はカフェでバリスタとして働いていたようで、その縁かコーヒーメーカーの Aero Press にも投資しているようだ。

しかしこの Andrew Wilkinson という人が曲者っぽくて、 Castro を買収したり、ポッドキャスト配信者がリスナーに課金するためのポッドキャストプラットフォーム( Supercast )を作ったりしておきながら、Twitter に「ポッドキャストというものは心を不安定にさせるので電話からポッドキャストアプリを削除した」と書いていたりする。

なぜそんな妙な奴がやってる会社に Castro を売らなければならなかったのか。 Castro 創業者の Padraig と Oisin がやっていたポッドキャスト Supertop Podcast で買収時のことを話していたので聞いてみたが、かなりお金に困っていたようだった。聞いていて切なくなるほどだ。

  • 金がなさ過ぎて正しい判断ができなかった
    • CarPlay 対応しなければと思っていたが、 CarPlay 対応のカーナビを買う金がなかった
      • 友達に検証してもらいながら開発するしかなかった(一回の動作検証に 4 日くらい時間がかかった)
      • たった 500 ドルか 600 ドルすら節約していたが、さっさとカーナビを買って開発を進めるべきだった
    • WWDC に行きたかったが金がなくて行けなかった
      • 行った方がネットワーキングや Apple の開発者たちに質問ができて有意義なはずなのに行くという判断ができなかった
      • 買収の条件に WWDC に行けることを盛り込んだ
  • 買収によってお金のことばかり考えなくてよくなった
    • 毎月決まった日に給料がもらえるのがとにかく嬉しい、お金のために受託開発をする必要がなくなった
    • 短期的なキャッシュのために機能を作っていたが、これで長期的な視点で開発ができる

買収直後に収録されたエピソードでは↑のような話を繰り返ししている。加えて Andrew Wilkinson のことをいい奴だと何度も述べているが、なんだか自分たちに対して言い聞かせてるみたいだった。

Xcode に戻りたい

彼らは 2018 年の 12 月に Tiny に Castro を売ったが、 Padraig は 2019 年の 7 月に Tiny を辞めて Castro の開発から離れてしまった。

彼は Castro を売却したときはマネタイズやサポートなどの開発以外のことに時間を使うことにうんざりしていたので、開発に集中するために Tiny に身売りしたのだと話していた。

しかし Padraig が Castro を離れる際に収録されたエピソードでは、マネジメントや分析、マネタイズばかりやってきて疲れてしまったと話していた。開発に集中するために Castro の所有権を手放したのに、結局開発以外のタスクで疲弊してしまったようだ。表立って言いはしないけれど Tiny との折り合いも悪かったのかもしれない。

iOS Developer から愛されていた Padraig と Oisin

この最終エピソードは次々に彼らの友人がメッセージを寄せていて、無名な人から有名な人まで多くの人からのメッセージが収録されている。 Mac のソフトウェア開発で有名な Panic の面々や、競合ポッドキャストアプリの開発者たちもコメントを寄せている。 Pocket Casts の創業者 Russell Ivanovic や、あの Overcast の Marco Arment のコメントも聞ける。 Marco は Castro が Overcast にない機能を実装しているのを見つける度に悔しい思いをしていたと話している。彼らは競合ではあったが、同じ iOS Developer として情報共有をしていて、友だち同士でもあったみたいだ。

最終エピソードでコメントを寄せている人々の人数は数十人にもおよび、いかに開発者コミュニティで Padraig と Oisin 、そして Castro が愛されていたかがわかる。

Padraig が離れたあともしばらくは機能アップデートが続いていたが、 2022 年の 10 月に Oisin も Tiny を離れ、ほとんど機能アップデートされないようになってしまった。

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Castro の死と再度の身売り

Oisin が Tiny を辞めてしばらく経った 2023 年の秋から様子がおかしくなり始めた。 Castro には購読中のポッドキャストに新規エピソードが追加されたときにプッシュ通知をしてくれる機能があるが、その通知が来なくなり、新着エピソードがあるのかどうかは自分で個別ポッドキャストのエピソード一覧の画面を開いて 2, 3 回手動でリロードしなければならないという感じになってしまった。

そうこうするうちについにはサーバーが全く動かなくなってしまい、新しいエピソードを聞くことすらできなくなってしまった。

一時はサービス閉鎖も噂されるほどで、ほぼ死んだ状態になってしまっていた。

Twitter には「金を返せ」とか「許せない」といった怒号が飛び交い、 Reddit には Castro の代替を探すスレッドが立っていた。

Castro alternatives?
byu/berniestormblessed inpodcasts

自分も Castro の代わりになるものを探してみたが、これというものは見つけられなかった。

障害が発生してからも何もアナウンスはなく、一週間程度経ってからようやくサービスは復旧したが、 Twitter には「 Castro は2ヶ月後にシャットダウンする」と元スタッフが投稿しており、ユーザーの間に不安が広がった。

Castro は公式ブログで Tiny からはじき出され、次の引受先を探していることを認めた。

そんな中、 2024 年の 1 月再度障害を起こしてしまい、ユーザーの不満は最高潮に達して離脱する人が続出した。

救世主

このまま買い手が見つからずにサービス終了するのではととても心配になっていたが、 2024 年の 1 月末に買い手が決まり、サービスシャットダウンの危機は免れた。

買収したのは Instagram の元エンジニアで、いまは個人で Android のポッドキャストアプリ Aurelian Audio を作っている Dustin Bluck という人物(正確には Bluck Apps という開発会社)。買収時のいろいろをポッドキャストの The Changelog で語っている。

レストラン規模の買収額

他に買いたい人がおらず、金額は 6 桁で、スタートアップというよりレストラン規模の買収金額だったようだ。数千万円から一億円の間で買い取ったのだろう。 Instagram で働いていて Meta のストックオプションがあれば個人でもそのくらい用意できるのかもしれない。

買収後はアプリはどんどん良くなってきている。正直なところ最近の UI はあまり好みではないが、サーバー側がきちんとてこ入れされていて、新着エピソードがあればちゃんとプッシュ通知が届くし、何も問題はない。

サブスクリプション価格のてこ入れなんかも行われていて、 Supertop 運営時代にサブスクリプションに加入したユーザーは年間 950 円で利用できていたが(自分もその一人)、比較的最近サブスクリプションに登録したユーザーは 4500 円くらいかかっていたはず。これは不公平ということで全ユーザー一律 3500 円に価格改定された。自分としては高くなるが、いまどきサブスクリプションが年間 950 円というのは安すぎるので 3500 円への価格改定は妥当だと思う。


なんとも言いようのないさみしさ

Castro が復活したこと自体は喜ばしいし、新しいオーナーの Dustin Bluck という人はポッドキャストとポッドキャストアプリのことが好きで Castro というサービスを買い取ったようだ。

ただ Padraig と Oisin がインディーで作っていた頃の輝きは失ってしまったように思う。 Castro はあの Marco Arment も一目置いていたアプリだったのだ。

自分は職業プログラマーになる前、 Hog Bay Software の Jesse Grosjean や Coda を作っていた Panic に憧れていて、あんな風にソフトウェアを作って暮らしたいと思っていた。

Padraig と Oisin もきっと同じだったのだろう。 Supertop Podcast の Episode 38 で「二人が暮らしていくのに十分な収入があれば、それ以上は求めていなかった」4と述べている。

なぜ Castro は身売りしなければならなかったのか

Supertop と Castro はなぜこんな末路をたどってしまったのだろう。 Padraig と Oisin はどうすれば良かったのか。

受託以外でソフトウェアビジネスを営むなら、会社のタイプは二つしかない。インディー型か、スタートアップ型かだ。それぞれでコスト構造が異なるし、ビジネスモデルが異なる。それぞれのコスト構造にあった技術戦略とビジネス戦略、プロダクト戦略が必要になる。

Castro の創業者二人は規模拡大を望んでいなかった(インディー型)。にもかかわらずフリーミアムのビジネスモデル(スタートアップ型)を採用したことにより、ユーザー規模を大きくせざるを得ず、規模拡大のコストだけ払ってその果実を収穫できなかった。この希望と戦略のミスマッチが悲劇を招いた。

サービスのランニングコスト(技術戦略)

Castro は UI/UX のよさを売りにしたアプリだった。 UI/UX の良さはデザインだけで決まるものではなく、サーバー側のシステムも必要だ。プッシュ通知、端末間の同期などなど。

このアプリの UX はサーバーサイドのシステムとセットで成り立っていた。サーバーがあるということは、ユーザーが増えればシステム投資をしないとスケールしなくなってしまうということだ。

しかし Castro は買い切りのビジネスモデルで始まり、サブスクリプションを始めたときも年間 950 円という低価格だった。これではサービス維持のためにバックエンドの投資をしたり、エンジニアを採用したりということは難しかっただろう。

フリーミアムモデルの採用(ビジネス戦略)

おまけに有料アプリをやめてフリーミアムモデルに移行したことで無料ユーザーの数が増え、 Padraig がポッドキャストのエピソードで話しているとおり、ユーザーからの問い合わせメールに返信するのに忙殺されるようになって開発を進めることができなくなってしまった。5

新しいユーザーはほとんど無料ユーザーで、無料ユーザーが増えても全然儲からない構造だったのに、フリーミアムモデルを選択したことはインディー路線とはミスマッチだっただろう。フリーミアムを採用するなら、広告などユーザー数が増えることが収益増につながるような補助輪が必要だった。

Castro にも一応広告出稿機能はあったが、広告主となり得るのはポッドキャストの配信者のみで、ポッドキャストの検索画面や Inbox の上にバナー掲載してもらうための枠しかなかった。

Castro Ads

ポッドキャストの配信者はほとんどが個人なので、マーケティング予算なんてないだろう。非常にニッチな市場向けに広告メニューを用意してしまっていた。

ネットワーク効果をうまく使えなかった(プロダクト戦略)

Castro はフリーミアムにしてユーザー規模を増やす選択をしたのに、ネットワーク効果を生かすような設計になっていなかった。ユーザーが聞いているポッドキャストのエピソードを集計・集約して「いまこのポッドキャストが話題」のような機能や、レコメンデーションなどのソーシャルリスニング的な側面を打ち出していけばプロダクトの価値をより一層高められたと思う。フリーミアムモデルを取るならそういう方法でユーザー規模を価値に変えるしかなかった。

Castro は Tiny 買収後に TopPicks という機能を出している6。 Inbox にある未聴エピソードのうち、ユーザーが最も興味があると思われるものを推薦する機能だ。しかし説明によればこの機能は完全にローカルで稼働し、サーバーにユーザーのリスニング履歴データは送られないので安心して欲しいと説明している。

しかしローカル稼働では大したアルゴリズムもなく、データ量が少ないため推薦の精度は決してよいものではないだろう。実際、自分の Inbox は決して聞きたいと思えるものではない(めっちゃ古いエピソードが表示されたりする)。

ユーザー規模をプロダクト価値に反映することよりも、プライバシー保護の方を優先するという判断をしてしまった。プライバシーを守りながらネットワーク効果を生かすというやり方もないわけではなかったと思う。


Castro の問題は、よいプロダクトを作れなかったことではない。

むしろ逆で、プロダクトとしては優れすぎていた。Push 通知や同期のようなサーバーサイドの仕組みに支えられた UX を目指しながら、創業者たちはインディーデベロッパーとして、二人が無理なく暮らしていける規模の事業を望んでいた。 Castro の末路が教えてくれるのは、技術戦略、ビジネス戦略、プロダクト戦略を最初から噛み合わせて考えなければならないという、ごく当たり前で難しいことだ。

それでも、自分にとって Castro が最も優れたポッドキャストアプリだったという事実は変わらない。だからこの話は、教訓として正しいだけでなく、どうしようもなくさみしい。


  1. 2009 年に In-App Purchase が導入され、 Auto-Renewable Subscription は 2011 年からだがニュースやメディアなどコンテンツ系に限定されていた。一般的なソフトウェアにサブスクリプションが拡大されたのは 2016 年になってからだった。 

  2. App Store (Apple) - Wikipedia 

  3. Apple details App Store changes including new subscription revenue split & search result ads - 9to5Mac 

  4. https://podcasts.apple.com/jp/podcast/supertop-podcast/id1143273587?i=1000425691016&r=1758 

  5. https://podcasts.apple.com/jp/podcast/38-we-sold-castro/id1143273587?i=1000425691016&r=1514.1 

  6. https://podcasts.apple.com/jp/podcast/supertop-podcast/id1143273587?i=1000434148783 

| @雑談

Money

個人開発ではないが、課金については仕事で結構やってきてまぁまぁの知見を得た。かつて自分も情報を得ようとネットで探してみたが、極めて情報が少なかった。ソフトウェア開発についてのノウハウは結構ネットに転がってるが、値付けなどについての情報は少ない。エンジニアとマーケッターでは文化が違うのかもしれないが、そもそも値付けに関しては商材(ソフトウェア)によって様々なので定石がなく、結局のところ自分で試してみないと正解がわからないのではないかと思う。そういう前提はあるものの、自分が得た知見をベースに Cside さんの質問に答えてみたいと思う。

寄付募集型か、有料で一部の機能を解放する型か

寄付型ではかなり少人数しかお金を払ってくれない。どんなにヘビーに使ってもお金を払う必要がなければ1円も払わない人の方が圧倒的だと思う。

機能に課金しないのであれば、共感とか支援という文脈でお金を払ってもらうかたちになる。となるとソフトウェアにどんな機能があるかよりも、どんな人が作っているかや、作り手の思想や哲学の方が大事になる。ソフトウェアのファンではなく作り手個人のファンを作る感じに近い。

とういわけで、自分の人間的魅力に自信がある場合を除いて機能解放型(フリーミアム)をおすすめしたい。

価格設定

めちゃくちゃに難しい。これは実験もしづらい。しかしある程度ユーザーを集められているなら、「ヴァン・ウェステンドルプの価格感度メーター」がおすすめ。ユーザーに以下の四つを問い、グラフ上にプロットして最適価格を探る。

  • この商品がいくらなら高すぎて購入に抵抗を感じますか?
  • この商品がいくらなら安くないと感じますか?
  • この商品がいくらなら高くなくて買得だと感じますか?
  • この商品がいくらなら安すぎて品質に不安を感じますか?

高すぎると高くないの交点が高さの限界点、安くないと安すぎるの交点が安さの限界点、安すぎると高すぎるの交点が最適価格となる。

書籍『Product-Led Growth』より
書籍『Product-Led Growth』より

有料で一部の機能を解放するなら、どこまで有料にするか

これもめちゃくちゃに難しいが、以前書いた以下の記事は正鵠を射ていると思う。

ソフトウェアには売りとなるコア機能があるはずで、この機能を段階性の課金にする。たとえば一定期間内で 5 回までは無料で使えるが、 6 回目からはサブスクリプション登録済みのユーザー限定にする。そしてそのコア機能を使いたくなる魅力的なおまけの機能をたくさん作る。そうするとおまけ機能を使いたいがためにコア機能もじゃんじゃん使って制限に到達し、お金を払うことになる。

おまけ機能自体に課金することはあまり良くなくて、課金の仕組みが複雑になってメンテナンスコストが上がる。課金体系をシンプルにするためにおまけ機能とコア機能をセット販売すると、人によって何に価値を感じるかは様々なので「コア機能だけ使いたいのでコア機能だけの安いプランを作ってほしい」と言われてしまう。なので課金対象はあくまでコア機能の無料枠をはみ出た部分だけにし、おまけ機能は無料化するのが良い。

料金プランはシンプルであればシンプルであるほど良く、開発者自身も楽になるしユーザーの認知的負荷も小さくなる。複雑な料金プランは誰も幸せにならない。

買い切り型か、月額サブスクリプション型か

自分が買い手のときは買い切り型が好みだが、売り手として考えるときは月額サブスクリプションが良い。

ソフトウェアは作っておしまいではなく必ずメンテナンスが発生する。買い切り型では常に新機能を追加した新しいバージョンをリリースしなければ収益を上げられず、メンテナンスに十分な時間を割くことができない。結果としてソフトウェアの品質が低下してしまう。サブスクリプション型であれば毎月定額で収入を得られるので、メンテナンスに時間を割きやすい。

ユーザーとしても海のものとも山のものともつかないソフトにいきなり数千円を払うのには抵抗があるはずなので、試しやすい金額で使い始められるサブスクリプションの方がうれしいはずだ。

サブスクリプションの継続率は作り手にとって示唆に富んだ情報源にもなる。継続率が低下していたらユーザーの満足度が下がってきているというシグナルだし、開発方針の決定に有効活用できる。ソフトウェアはユーザーの満足度が全てだ。満足度を測るために機能開発することさえある。それをせずにサブスクリプションの継続率から満足度を推し量ることができるなら一石二鳥だ。

サブスクリプションのデメリットは開発難易度が上がることだ。 App Store や Google Play の仕組みを使うと Apple や Google にショバ代を取られるし彼らの方針に振り回されて大変な目に遭う。ウェブアプリであれば Stripe を使って自前実装することもできるが、スマートフォンアプリで機能課金をする(有償で機能制限を解除する)場合はアプリ内決済の実装がルール上必須となる(リーダーアプリ除く)。そのほか、ユーザーからの問い合わせも増えるので、サブスクリプションは財務的にはメリットがあるが、肝心の機能開発に割ける時間が減ってしまうというリスクもある。


以上が自分の知見を元にした Cside さんの質問への回答になる。

しかし冒頭にも書いたように価格を含めた課金の設計は売る物によって様々で定石はないと思う。結局のところは実際に自分で試して正解を探り当てていくしかない。

ここに書いてある情報がある日突然マーケティングっぽいことに手を出すことになった門外漢の人の助けとなれば幸いです

| @登山/ランニング

Apple Watch でトレランするならフットパスが便利

Apple Watch でトレラン(ランニング)する人のための記事を以前書いた。アプリを組み合わせれば Apple Watch が Garmin 相当になるという記事だった。

その記事ではトレラン中の地図&アクティビティトラッカーとしては WorkOutdoors が良いと書いていたが、フットパスというアプリを発見してしまってこっちの方が地図が見やすく操作も簡単で高機能だった。 Apple Watch でトレランするならフットパスが激しくおすすめだ。

フットパスは、スマートフォンのアプリを開いて指先で地図上をなぞるといい感じにルート(ウォーキング、ランニング、ハイキング、サイクリング、ドライブなどに対応)を提案してくれるというのがウリだが、正直この機能は日本の道路では使いづらい。きちんと区画整理されている欧米の街だったら使いやすいかもしれないが、ぐねぐね細い道が入り組んだ日本の道路では「そこじゃないんだよな」というルートが提案されることがある。

指なぞりルート作成機能はいまいちなのだが、自分が感心したのは以下だ。

  1. ゴール時刻の予想タイムを出してくれる(フットパス上で計画したルートだけでなく、 GPX を取り込んでも表示してくれる)
  2. 行動中の Turn-by-turn navigation (もうすぐ右ですとか、分岐を直進とか教えてくれる)
  3. Mapbox Outdoor Style の地図のほか、国土地理院地図を選ぶこともできる(国産アプリ以外ではめずらしい)
  4. 行動中に登りが残り何メートルあるか確認できる機能(地形を視覚的に確認できる)
  5. ウェブサイト footpathapp.com の使い勝手

ゴールタイム予測

Footpath App
何時頃ゴール地点に着くかを予測してくれる。

何時頃ゴール地点に着くかを予測してくれる。モーダルウィンドウ内の太字部分(「 15'00"/km 」と書いてあるところ)を左右に短くスワイプするとペースを変更出来て、任意のペースで何時間でゴールできるか確認することができる。

登山用の計画アプリだと「何月何日の何時に登山開始」みたいに日時を入れないと予想時間が表示されないが、これだと日時を指定することなく「いまスタートしたら何時頃下山できるか」がぱっとわかる。

スマートフォンアプリ側で計画を調整して Apple Watch に転送して開始すると、活動中は現在のペースだと何時頃ゴールできるかをリアルタイムで推測してくれる。

ゴールタイム予測

Turn-by-turn navigation

Turn-by-turn navigation

地図を表示しながらの Turn-by-turn navigation

いわゆるカーナビのような機能。 Garmin の Forerunner 9XX シリーズに付いてる機能を Apple Watch で利用できるようになる。 WorkOutdoors ではナビゲーション機能はなく、ルートを外れたときと復帰したときにアラートがなる仕組みだった。正直なところトレイルでカーナビのような機能はいらないのではと思っていたが、実際に使ってみるととても便利だった。ルートを間違ったことを事後的に教えてもらっても便利だが、なるべくならルートを間違うこと自体を予防したい。もうすぐ分岐があることを事前に教えてもらえると、分岐にさしかかったときに注意するのでテキトーに走って間違ったルートに進むということがない。

標高断面図

標高断面図 全体

標高断面図 部分

これからどれくらいの登りが控えているのかを確認できる。これがめっちゃ便利。予定しているコース全体で見ることもできるし、直近のセクションに拡大して確認することも可能。予定している累積獲得標高のうちすでに何メートル登ったか、残りは何メートル登るのかが一目でわかる。これは登山を始めた当初から欲しい情報だったのでスーパー便利だ。

パソコン向けウェブサイト

footpathapp.com

パソコン向けのウェブサイトがまたよくできていて、ルートに任意のポイントを設置することが可能。前回トレランのレースに出たときはエイドステーションにマーキングしておいて関門時刻を書いておいた。こうすることでエイドまであと何キロメートルかがわかり、精神的に楽だった。

もちろんウェブサイトでルートを作成、編集することもできるし、 GPX ファイルを取り込むこともできる。

注意点

自分が知る限り、 Apple Watch でトレランするならフットパスが最高なのだが注意点がいくつかある。

1. 日本語訳が良くない

「他のワークアプリで使用する」というトグルスイッチを有効にしたら、ログが自動的にワークアウトに追加されなかった。この項目の意味はフットパスを地図アプリとしてのみ使い、ワークアウトのログは純正アプリで取るケースを想定していそうだが、この日本語では意味がわからない。

2. GPX インポートしたとき、本来通りたいところではないところにルートが引かれる

地図アプリの定番 SDK に Mapbox というものがある。フットパスも Mapbox をベースにしているが、 Mapbox も独自のルート情報を持っているようで、 GPX ファイルを取り込んだときに勝手にルートが Mapbox 上のルートに置き換えられてしまう。 Mapbox 上のルートは間違っていたり、現在使われていないところが残っていたりするのでちょっとやっかいだ。

3. Apple Watch Ultra でないとナビゲーション通知が事前に届かない

Apple Watch Ultra であればちゃんと分岐の前で通知が来るので便利なのだが、 Series 6 だと通過後に通知が来ることがあった。

4. UI がもっさりしている

デジタルクラウンを回すことで距離モード、ペースモード、標高モードを切り替えられるが、この切り替えがスムーズに行かずストレスを感じる。

5. ランニング向けの情報が不足

純正のワークアウトアプリであれば、ランニング中に心拍数ゾーンを確認できたり、ケイデンスや上下動を確認できたり、任意の地点でセグメンテーションしたりすることもできるが、フットパスにはそれらの機能がない。フットパスは地図アプリとして使い、ログは純正ワークアウトアプリで取れということかもしれないが、それだと GPS を使うアプリを同時起動することになって電池の持ちが悪くなりそうだ。

6. サブスクリプションに登録する必要がある

年額 2600 円のサブスクリプションに入らないと機能が使えない。自分は全然払う価値があると思うが、サブスクリプションに抵抗がある人は買い切り 1200 円の WorkOutdoors をどうぞ。

まとめ

いくつか注意点がありはするものの、フットパスに出会ってから山を走るのが快適になった。トレランのレースに出るとまわりは Garmin や Polar 、 Sunto などを使っている人ばかりで、「やっぱり Apple Watch で山を走るのはダメなのかな?」と不安になっていたが、いまは全く不安を感じなくなった。

電池持ちのよい Apple Watch Ultra とフットパスがあれば、日常生活では Apple Watch の便利な機能(タッチレス決済、 iPhone や Mac のロック解除、音を鳴らして iPhone を探す、 Apple Music で音楽を聞く)を享受しつつ、ルートを確認しながら安全に山を走ることができる。めっちゃおすすめです。

Footpath app

| @WWW

はてブコメント、漫画は高いという意見に対して「貧乏すぎでは?」「買いすぎでは?」「考えを改めた方がよい」「どうせタダで読みたいだけだろ」というコメント付いているけど、漫画にいくら払えるかは人それぞれだし、そもそも無料で読みたいという意見は大勢ではない(広告入ってて良いので無料で読みたいというコメントは一つだった)。漫画は安い派の意見の方が一方的に見える。

単位時間あたりの費用で漫画が他の娯楽より高いのは事実だと思う。漫画はコミックが一冊 600 円くらいするが、一冊 15 分くらいで読み終わってしまう。 1 分あたりのコストは 600 ÷ 15 = 40 円だ。映画は 2000 円払って 120 分楽しめる。分単位のコストは 2000 ÷ 120 = 16 円だ。漫画と同じくらいの金額で買える文庫本の小説なら読むのに 3 、 4 時間くらいかかるし、 1 分あたりのコストは 3 円。一冊 1500 円の単行本でも 8 円。漫画の 40 円は高すぎる。今年はうっかり一巻無料キャンペーンに釣られて空母いぶきを読み始めて続きが気になってしまい、全巻買ってしまって 1 万円くらい使ってしまった。漫画は娯楽としての経済効率が悪過ぎる。

動画配信以前、セルビデオは一本一万円くらいしたし、セル DVD も 4000 円くらいが相場で高すぎた。なのでレンタルが主流だったし、光学ディスクのレンタル屋だった Netflix が配信会社に進化した。漫画は昔はレンタルあったし今も細々と存在してるけど多分最も利用されてるのは漫画喫茶だと思う。

漫画は速く沢山読めて沢山読まないと話が完結しない特性があるから漫喫にベストマッチだと思う。時間課金なので速く読める人ほどお得。漫画は嵩張るからレンタルして家に持ち帰りまた返しにくるのは面倒だけど、漫喫ならその場で手に取ってすぐ読める。買うと保管場所に困る問題も解決されている。

少し調べた限り、漫画喫茶は著作権者にお金を払っていない(少なくとも法的には払う義務がない)ようだった。

長らく著作物には貸与権が認められていて、音楽や映画はレンタルされる度に著作権者に収益が発生していたが、書籍は貸与権の対象外だったようだ。 2005 年に貸与権が書籍に対しても認められるようになり、貸本屋(レンタルコミック含む)は著作権料を支払わなければならなくなったようだ。

ただし漫画喫茶に関しては、文化庁が店舗内での閲覧は「貸与」に値しないとの見解を示したことから、貸与権の対象となっておらず、漫画喫茶には著作権料を払う義務がない状況のようだ。

こうやってみると漫画の著作権者たちの真の敵は漫画喫茶ではないかと思う。 2021 年 3 月期の決算で、業界一位の快活CLUBは漫画喫茶部門で 484 億 9900 万円の売上があるようだ。

漫画のサブスクリプションサービスを始めることで、現状漫画喫茶に流れているお金の大部分を漫画家・出版社は回収できるだろう。コロナ禍なのだし、漫画喫茶に行かずにサブスクリプションで手軽に読めるようになれば利用したいという人はかなりいそうだ。

サブスクリプションを始めるにしても、新作はサブスクリプションでは読めないような設計にすることで買い切り型のモデルへの悪影響は軽減できると思われる。動画配信もコロナ禍前は上映と同時配信みたいのはなかったが、漫画でも同じようなことができるはずだ。サブスクリプションで読めるのは旧作中心で配信期間も限定すれば、はてブコメント欄でマウンティングしてるような漫画愛好家は新刊発売後に購入して読みそうだし、サブスクリプションで気に入っていつでも読めるようにしたいと思った人も買い切り版を購入するだろう。

いい具合に制度設計できれば今より漫画家・出版社側の利益が減ることはないだろうし、読者の裾野を広げるという意味でも、手頃な価格で漫画を読めるサブスクリプションサービスができて欲しい。未来の漫画業界のためにも漫画のサブスクリプションは必要なのではないかと思う。

| @雑談

※初出は HEY World の https://world.hey.com/hitoshi.nakashima/post-8214d314 です

ソフトウェアで万人に響く機能はない。なのでサブスクリプションのソフトウェアサービスでフルセットのプランだけを作ってそれを売るとユーザーから値引き要求がくる。フルセットのプランのうち、機能 A だけ必要であとはいらないので負けろと言われる。

ソフトウェアは限界費用が限りなくゼロに近いので、使える機能の多寡で価格を変えるのは売り手からすると合理的ではないし、複雑な商品メニューの維持管理、サプスクリプションのプラン変更によるアップグレードやダウングレード、決済プラットフォームの移行などを考えると極力支払いプランはシンプルにしておきたい。この辺りを複雑にすることで肝心なソフトウェアの機能開発スピードが落ちてしまったら本末転倒だ。

多分有償のソフトウェアは、コアとなる売りの機能があって、そいつを支えるサブ機能を追加していく戦略が正しいのだと思う。コア機能への従量課金だけを行い、あとはコア機能をもっと使いたくなるサブ機能を開発してそれらは無料にしてしまう。フリーミアム戦略を取るなら、フリーユーザーはフリーで使える分量を使っていると、コア機能をもっと使いたくなるサブ機能の魔力によってコア機能をついつい使い過ぎてしまい、お金を支払わざるを得なくなってしまう。こういう構造が美しいし、ユーザーからも納得してお金を払ってもらえる。

| @音楽

Spotify

音楽のサブスクリプションは 2018 年の春頃から Apple Music を使っている。ただ最近、 Spotify のレコメンデーションが良いという話を複数の友だちや Podcast 、仕事先で立て続けに耳にしたので久々に使ってみたら、確かに Daily Mix というやつが聞いたことないけど絶対に好きな感じの曲で埋め尽くされていてビックリした。 Spotify は 4 年くらい前にお試しで 2 ヶ月使っただけで、それ以後は使っていない。そのときに自分の iTunes ライブラリや聞く音楽の傾向を解析してレコメンデーションの土台としていたのだろう。すごい。

Apple Music にも For You というやつがあって「金曜日のプレイリスト」的なやつが表示されるが、半分くらいがライブラリにある曲、半分くらいが知らないけど全然好きじゃない曲が混じってたりする。 Apple Music のレコメンデーションでは まだ知らない新しい音楽(だけど好き) との出会いがない。どっちかというと Apple Music は個人に最適化されたプレイリストよりも「2010年代 ヒップホップ ベスト」みたいなプレイリストのようなキュレーションされたものの方がまともな感じがする。パーソナライズされたレコメンデーションはダメダメだ。

また、 Spotify にはあるけど Apple Music にない曲というのが結構多い。 Spotify のプレイリストで良かった曲を Apple Music で DL しようとすると曲がなかったりする。以前、ストリーミングサービスの一ストリーミング再生ごとのアーティストへの支払額みたいなやつの比較を見てて、確か Apple Music が一番高かった。どうせ聞くならアーティストに手厚くお金を払っているサービスを使いたいと思って Apple Music を選んだのだが、意外とインディー系のアーティストは Apple Music には楽曲提供しておらず、 Spotify の方に出しているようだった。

こうなってくると Spotify に乗り換えたいなと思うのだけど、 Apple Music はファミリープランに入っているので自分の一存で Spotify に移行することができない。ファミリープランは個人用プランからすると著しく安い価格設定になっているが、その理由はチャーンの抑制にあると思う。意思決定者を複数人にすることで他サービスへの乗り換えが困難となる。よく考えられた価格設定だ。

結果としていまは広告に耐えながら Mac の Spotify で好みの曲を探し、ちまちま Apple Music でライブラリに追加して iPhone で聞くという生活をしている。スマートフォン版の Spotify は無料状態だと完全シャッフルになるしめっちゃ広告入るので厳しい。 Apple Music と Spotify に二重支払いできるくらいの金持ち1になりたい。


  1. 元同僚でウルトラ富裕インフラエンジニアの @glidenote 先生は Apple Music と Spotify に二重加入しているとのこと 

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新聞社のウェブサイトの記事、ほとんどがペイウォール入るようになったけど社会の不公正や富の格差を是正したい、みたいなテンションの記事がペイウォールに阻まれてると何だかなという感じがする。新聞社は読者にどんな価値を提供して対価を得ようとしているのか分からない。

自分たちの主義主張を読ませるために金を取るのはおかしな話で、そんなビジネスは消費者から受け入れられないと思う。金を取るなら一週間のニュースダイジェストとか、読者 = ユーザーの課題(忙しくてニュースを読む暇がないなど)を解決する何かを提供しないとだめだと思う。

昔はインターネットなかったから紙に文字が印刷してあればどんな内容であっても希少価値があって、それ配布するだけで価値があって消費者が金払ってくれてたのかもしれないけど、いまはインターネットがあるから情報の集約と配布はコストが下がっててそこに価値を見いだすことは難しい。

多くの人は新聞社にストレートニュースを効率的に届けてくれることや、素人には解釈が難しい政治経済の解説などを期待していると思う。金を払って新聞社の主義主張を読みたいのは一部の思想的に偏った人たちだけなはずで、その人達をターゲットにすると思想的にどんどん先鋭化していくしかない。

毎日配達しなくてもいいから週に一回届いて、一週間の出来事ダイジェストと難しい政治経済の事柄を解説してくれるメディアが欲しいよなと思う。 6 年前に同じようなことをブログに書いてた。

21 世紀を生きるフツーの人が求めているのはそういうメディアではないだろうか。

追記 2021-10-28

観念して毎日新聞のスタンダードプランに登録した。